「お前は心配しなくていい」——亭主関白な夫を信じ、お金のことはすべて任せてきた妻。しかし夫の急逝後、その言葉の裏に隠れていた現実が次々と明らかになります。本記事ではFPオフィスツクル代表・内田英子氏が、Aさんの事例とともに、遺族年金・相続の際の注意点について解説します。
年金事務所「あなたに遺族年金はありません」…65歳夫の急逝で発覚した“10年の空白”。60歳妻が遺族年金を受け取れず、〈貯金ゼロ〉で再出発した理由【FPが警鐘】
残された“家計ノート”が映していたもの
夫の四十九日が過ぎたころ、良子さんは誠さんが遺した一冊のノートを見つけました。几帳面な字で、毎月の支払いが淡々と記されています。そのなかに、10年前から途切れることなく続く一行がありました。「良子・国民年金保険料」。
それは、良子さんが50歳から60歳になるまでの10年間、夫が妻の国民年金保険料を払い続けていた記録でした。良子さんは、夫が自分なりに家族を守ろうとしていたことを、初めて知ります。不器用さが夫らしいなと思いながらも、「もっと早く事情を知ることができていれば」と思わずにはいられませんでした。
「心配しなくていい」という言葉が遺した、最大の落とし穴
亭主関白だった誠さんの「ちゃんとやってる」に、嘘はありませんでした。彼は彼なりに、誠実に家計を背負っていたのです。問題は、その中身が誰にも共有されていなかったことです。結果として、法人を畳んでいたことも、妻が扶養から外れていたことも、夫の胸の内にあり、どのような落とし穴があるのかを調べるすべがなにもない状態になっていました。
会社員が加入する厚生年金と、自営業者が加入する国民年金では、遺された家族への保障に大きな差があるのが現状です。厚生年金加入者が亡くなれば、配偶者には遺族厚生年金が支給される可能性がありますが、国民年金のみの場合は異なります。特に子のいない配偶者の場合、長期にわたって生活を支える遺族年金が当然に用意されているわけではありません。自営業世帯や個人事業主世帯では、公的年金だけでなく、預貯金、生命保険、事業の債務、住まいの扱いまで含めて、万一の生活設計を確認しておきましょう。
良子さんはこれまでを振り返って、夫を信じるだけでなく、自分でも家計や年金の状況を確認しておくべきだったと後悔したそうです。たとえば年に1度送られる「ねんきん定期便」を見ながら夫婦で老後のことを話してみる。一緒に年金事務所に相談に行ってみる。もし二人が生前にそういった時間を数十分でも持てていたなら、妻の老後の見通しはまったく違ったものになっていたかも知れません。
※本記事の事例は複数の相談をもとに、プライバシー保護のため脚色を加えています。文中で解説した年金に関して、遺族年金等を受け取れるかどうか、また受け取れる場合の金額は、年金の加入履歴や保険料の納付状況、家族構成、生計維持関係、年齢、過去の受給状況などによって異なります。制度の内容は改正や年度によって変わる場合もあるため、ご自身のケースについては、日本年金機構や年金事務所、弁護士等の専門家に個別にご確認ください。
内田 英子
FPオフィスツクル代表