妻自身も、知らぬ間に扶養から外れていた

良子さんは、夫の公的年金の加入状況を調べるなかで、自分自身の加入状況についても確認しました。その際、自身の年金記録にも大きな勘違いがあることを知ったのです。

良子さんの認識としては、ずっと厚生年金に加入している夫の扶養に入っているものと思っていました。しかし、実際はすでに10年前に夫の扶養(国民年金第3号被保険者)から外れ、第1号被保険者になっていたのです。夫が厚生年金から抜ければ、その配偶者も扶養ではいられず、自分で国民年金保険料を納めなければなりません。

ただ、ここには良子さんにとってよい誤算がありました。良子さんの国民年金保険料は、60歳になるまでのあいだずっと、誠さんが納め続けていてくれていたようなのです。なにも語らず「心配するな」と繰り返した夫は、妻の年金保険料をしっかりと支払っていました。おかげで良子さん自身の老齢基礎年金は確保されています。良子さんは少し胸をなで下ろしました。

「貯金ゼロ」を決定づけた、法人と個人事業主の違い

良子さんを最終的に追い詰めたのは、年金だけではありません。個人事業主だった誠さんは、本人にとっても突然の出来事だったこともあり、事業の負債を残していました。

法人の場合、経営者が会社の借入の連帯保証人になっていれば、会社の負債が個人におよぶことがあるものの、会社と経営者個人は法律上別人格です。一方、個人事業主の場合、事業用の借入や未払金は本人の債務として扱われます。そのため、相続放棄をしなければ、事業の負債も相続の対象となり、遺族が引き継ぐことになる可能性があります。

結局、良子さんは専門家に相談したうえで、相続放棄することを決めました。新しい暮らしのために、自身名義のわずかな蓄えも使った結果、残されたのは、パートでの仕事と、65歳から始まる自分の老齢年金だけ。幸い良子さんは過去に厚生年金に加入して働いていた期間があり、月9万円弱の年金を受け取れそうであることがわかりました。しかし60歳の良子さんにとって、厳しい現実が突きつけられたことには違いありません。文字どおり、貯金ゼロからの再出発でした。