定年を迎え、再雇用で収入が減っても「退職金には手をつけず、なんとかやっている」はずだった62歳のBさん。しかし、特別なムダ遣いをしていないにもかかわらず、短期間で老後資金が130万円も減少する事態に直面。本記事では、横山光昭氏と関口博美氏の著書『おふたりさまの老後資金は「これ」で増やす』(小学館)より一部を抜粋・再編集し、高齢者が陥りがちな〈ある固定費〉の落とし穴について解説します。
「退職金には手をつけてないのに…」62歳男性の家計に異変。“無駄遣いゼロ”の裏で、気づけば〈老後資金130万円〉が消滅していたワケ【FPが解説】
老後の医療保険は本当に必要なのか
高齢者ほど死亡保障の必要性は薄れ、「子どもが独立したら解約していい」という提案は、たいてい納得されます。
一方、医療保険の解約は心理的なハードルが高いようです。年齢を重ねるほど病気になる可能性が高まり、必要性が増すと考える人が多いからです。
そもそも医療保険は、病気やケガをしたときにかかる医療費の補助的な役割に加え、働けない期間の収入を補う役割があります。ですから、再雇用で働くうちは、資産状況によっては万が一の生活費の補填目的で加入する考え方も理解できます。
また、年金生活に入っても、老後資金を減らさないために加入し続けるのも間違いではありません。しかし、日本の健康保険制度は極めて充実しています。
まず、かかる医療費の大部分を国の健康保険がカバーするため、自己負担は1〜3割に抑えられます。6〜69歳までの医療費の自己負担は3割、70〜74歳は収入によって2割もしくは3割となり、75歳以降の医療費の自己負担は基本1割で、所得により3割となります。
治療費が月100万円でも自己負担は9万円弱…心強い「高額療養費制度」
さらに心強いのが「高額療養費制度」です。治療や入院が長期化して医療費が高額に膨らんだとき、収入に応じて自己負担分の上限額が設定されています。
自己負担の上限額は、2026年8月以降、段階的に引き上げられる予定となっていますが、多大な医療費がかかっても、支払う医療費に歯止めがかかる仕組みが基本的にあるわけです(図2)。
たとえば、現行制度では、病気やケガで高額な医療費がかかったとしても、70歳未満で年収300万円の場合、医療費の自己負担分は最大5万7600円です。また、がんなどで治療や入院が長引くときは、4か月目から「多数・該当高額療養費」が適用され上限がさらに下がり、自己負担分は最大4万4400円となります。
ただし、一つの疾患や治療に対しての計算ではなく、毎月1日から月末にかかった医療費に対しての計算となるため、月をまたぐ場合は負担が大きくなる可能性はあります。また、一時的な自己負担増への対策として、「限度額適用認定証」の利用ができます。医療機関への1か月の支払いの上限を、高額療養費制度の自己負担上限額までに抑える仕組みです。
ちなみに、「マイナンバーカードの健康保険証(マイナ保険証)」を利用し「限度額情報の表示」に同意すると、窓口での手続きなしで限度額適用認定が自動で受けられます。
厚生労働省の『医療給付実態調査』(2023年度)によると、部位別がん治療の平均費用は、1回の入院あたり、最低額の乳がんは6万2637円、最高額の直腸がんで7万9898円です(悪性リンパ腫、白血病を除く)。
この金額は、公的な保険適用後の自己負担額の平均です。このほか、食事代や差額ベッド代など、公的保険適用にならない費用もありますが、貯蓄から捻出できる範囲といえなくもありません。
高額療養費制度のシミュレーション(2026年3月時点)
●65歳で年収500万円の人が1か月で総額100万円の医療費がかかった場合
8万100円+(100万円-26万7000円)×1%=8万7430円
→治療費が100万円でも実際に負担する金額は8万7430円となる
横山 光昭/関口 博美
ファイナンシャル・プランナー
株式会社マイエフピー
