子が親の面倒をみるのは当然だと思っていた

82歳のAさんは、夫を亡くしてから10年、55歳の長女Bさんと二人で暮らしてきました。Aさんは、要介護2の認定を受けていますが、身の回りのことがまったくできないわけではありません。とはいえ、足腰が弱くなり、通院や買い物には誰かの付き添いが必要です。夜中にトイレへ行くとき、転倒が心配でBさんを呼ぶことも増えていました。

長女Bさんは独身です。自宅から車で20分ほどの距離にある会社に勤務し、月収は手取りで24万円ほど。朝から夕方まで働き、帰宅後は母の食事の支度、薬の確認、洗濯、掃除をこなします。週末には買い物や通院の付き添いへ。それでもBさんは弱音を吐かず、Aさんは「うちの娘は本当によくやってくれる」と周囲に話していました。

「親孝行な娘さんで羨ましいですね」といわれると、「介護サービスなんてお金がもったいない。うちは娘がいるから最後まで面倒をみてくれる」と余裕の笑みを浮かべていました。

Aさんは、それが当然のことだと思っていたのです。

ある朝、娘が置いていった「一通の手紙」

ところが、ある日の週末のことでした。テーブルの上に、Bさんからの手紙が置かれていました。

「お母さんへ。もう限界です。しばらく距離を置かせてください。必要な手続きや通院の付き添いは、これまでどおり手伝います。でも、いまのまま一緒に暮らし続けることはできません」

Bさんが、突然家を出ていったのです。Aさんは愕然としました。

「親を置いて出ていくなんて」

残されたAさんの年金は月約11万円。水道代や光熱費、通信費等が口座から引き落とされると、手元に残せるお金はあっという間に半分程度に。医療費を支払ったり、移動スーパーや宅配サービスを使い、食費や日用品などを買ったりすればあっという間に底をつきます。Aさんの暮らしは大きく揺らぎました。思い出すのは「娘がいるから外に頼むなんて」と言い続けてきた自分の言葉。Aさんの頭の中で重く響いていました。