(画像はイメージです/PIXTA)

人口減少と高齢化が進む地方について、「需要がない」「儲からない」といった先入観を持つ経営者は少なくありません。しかし、公認会計士・税理士として全国の中小企業を見てきた辻哲弥氏は、「むしろ逆だ」と指摘します。「地方には市場がないのではなく、手つかずの市場が放置されているだけなのではないか」――。そこで本稿では同氏が、地方で生まれた小規模なDXモデルを全国規模の「事業投資」へと昇華させるためのポイントについて解説します。

「地方×DX」は事業になる

「地方=儲からない」というイメージを持っている経営者の方も少なくないでしょう。しかし、その発想は、人口規模だけを見た短絡的な判断にすぎません。

 

実際に地方にある企業の現場を丁寧に観察すると、そこにはまだ手つかずの“非効率”がいくつも残っています。

 

・手書きの台帳
・FAX中心の受発注
・特定の人物しか作成できない属人化したExcelファイル
・人手不足による慢性的な業務停滞

 

都市部ではすでに効率化されている業務が、地方では昔の形のまま残っているケースが珍しくありません。これは単に遅れているということではなく、「改善余地が温存されている」と捉えることができます。

 

つまり、地方には、DXによって初めて顕在化する需要が大量に眠っています。人が足りないからこそ、業務を標準化し、仕組みに依存する必要があるのです。
 

DXは単に新たなテクノロジーを導入することではなく、「非効率を可視化し、再現可能な仕組みに変える」こと。

 

この構造を理解すると、「地方×DX」は十分に成立する事業領域として見えてきます。
 

地方DXは「小さく始める」

地方DXでよくある失敗が、まだ1つの地域で成功していないにもかかわらず、最初から「全国の幅広い事業者が使えるツールを作ろう」などと、いきなり全国展開を狙ってしまうケースです。

 

地方の現場は一見シンプルに見えても、実際には長年の慣習によって業務が属人化しており、外部から見ただけでは本質的な課題が見えてこないことがよくあります。

 

だからこそ重要なのは、単一地域・単一業務に絞ることです。最初から全体最適を狙わず、「ここをDXすれば明確な改善が出る」という一点突破の設計が有効です。
 

具体的には、

・建設業に特化した原価管理DX
・介護事業者向けの勤怠管理DX
・農業法人向けの受発注一元化DX

などと対象を極限まで絞ることで、課題は鮮明になります。

 

DXは、現場に実装されてはじめて意味を持つものです。現場が求めているのは理想論ではなく、「明日から業務が軽くなる仕組み」です。

 

そのため、まず狙うべきは、「毎日必ず触る業務」や「ミスや手戻りが多い工程」、「属人化しているタスク」などの摩擦の大きい部分です。

 

まずは1つの地域で黒字化できる小さな成功モデルをつくり、そこで得た知見を言語化し、「誰がやっても同じ成果が出る状態」まで落とし込む。この工程を経ずに拡大すれば、必ず混乱が広がります。

 

検証可能な単位で設計することが、地方DXで重要なポイントです。

“地域貢献”で終わらせない…「仕組みづくり」が地方DXの再現性を高める

しかし、地方DXは、志だけでは続きません。地域に眠る課題はたしかに深く、解決できれば社会的意義も大きいものの、利益構造が伴わなければ持続しません。「いいことをしている」ではなく、利益が出続ける仕組みになっているかが重要です。

 

仕組みづくりにおいて重要なポイントは下記の3つです。
 

・属人業務を排除する
・地域固有の要素を削る
・標準化できる部分だけを残す

 

 

地方には独自の慣習がありますが、そこに過度に寄り添うほど再現性は失われます。そのため、譲れる部分と譲れない部分を明確に線引きすることが重要です。

 

具体的には以下の点が挙げられます。

 

・譲れない:業務フロー、データ形式、運用ルール など
・譲れる:説明方法、導入プロセス、現場調整 など

 

この切り分けが明確になるほど再現性は高まり、事業モデルは強くなります。

成功モデルができたら、モデルを全国に「横展開」する

1つの地方モデルが成功したら、事業拡大のためにそのモデルを他のエリアに「横展開」していくことになります。展開時に意識すべきは、「拡張」ではなく「複製」です。拡張、つまり地域ごとに仕様を変えていてはスケールしません。

 

成功した型をそのまま再現できる状態をつくることで、成長速度を一気に高めることができます。

 

そのためには、条例や文化、商習慣といった地域固有の要素と業務構造や人手不足といった汎用要素を分解する必要があります。

 

たとえば、建設業の原価管理が機能していない理由は、地域文化ではなく構造的な非効率にあります。この構造部分を抽出できれば、モデルは全国で通用します。

 

人口が少ない地域で成立した効率モデルは、厳しい制約のなかで磨かれたもの。制約下で成立したビジネスほど普遍性が高く、都市部でも十分に応用可能な強さがあります。

全国展開を支える「フランチャイズ」

直営展開には限界があります。採用・教育・管理にかかるコストが増えるほど、リスクも資金負担も本部に集中します。そこで有効なのが、地域事業者と連携する「分散型モデル」です。

 

この分散型モデルの代表例が、「フランチャイズ(FC)」です。

 

FCは分散型モデルのなかでも特に「成功モデルの複製」に強く、地方DXのように再現性が確立したモデルに高い親和性があり、地域事業者が持つネットワークや信頼関係を活かしながら、統一されたモデルを展開することができます。

 

直営か、提携か、フランチャイズか……。全国展開にはこのように複数の選択肢がありますが、どれを選ぶにしても重要なのは、「展開前の構造設計」です。

 

DXモデルを作るときと同じだけの熱量で“どう増やすか”を設計することが、全国展開成功のためのカギになります。

投資の視点から見た地方DXの“強さ”

投資の視点で見ても、地方DXには下記のように明確な優位性があります。

 

・初期投資にかかるコストが比較的小さい
・競合が少ない
・価格競争に陥りにくい
・解約されにくい

 

地方DXの多くは「仕組み構築」が中心であり、大規模な設備投資を必要としません。固定費型のビジネスは、一定規模を超えると収益性が一気に高まります。
なかでも特筆すべきが、4つ目の「解約されにくさ」です。

 

DXにより導入した会計や勤怠、受発注などの業務システムが企業のインフラとして組み込まれれば、それにともなってデータ移行の手間や再教育コスト、業務フローの再設計といった「スイッチングコスト」が発生します。この“切り替えの負担”が大きいほど、企業は簡単には乗り換えません。その結果、継続率が高まり、ストック型収益が形成されます。
 

地方DXは「地域課題の解決」であると同時に、合理的な投資対象としての魅力も備えているのです。

終わりに

ここまで見てきてわかるように、地方は衰退市場ではありません。人口減少という事実だけを見れば衰退に思えるかもしれませんが、その実「未整理の市場」です。

 

構造的な非効率や未整備の業務が残っている限り、そこには再設計の余地があります。課題が明確であるということは、裏を返せば、それだけ解決によって価値を生み出せる余白が大きいということです。

 

地方で成立するビジネスは、制約のなかで磨かれるからこそ、全国でも通用する可能性を秘めています。

 

地域貢献で終わらせず、一過性の成功で満足せず、「仕組み」に昇華させることで、地方DXは全国で通用する「横展開ビジネス」へと変貌するのです。

 

辻 哲弥

税理士法人グランサーズ代表社員
公認会計士・税理士