コロナ禍が変えた、「通勤」の感覚

さらに大きかったのは、コロナ禍を経験したことです。会社の方針で、約2年間、在宅勤務を経験しました。通勤がない生活。朝起きるのは始業の30分前と睡眠時間はたっぷり、夜も家族と食卓を囲める日々。昼休憩には庭でコーヒーを飲む時間さえありました。

ところが出社が再開すると、通勤が以前よりも重く感じられるようになったのです。「こんなに遠かっただろうか」と思うほどでした。往復3時間半の通勤は、年間にすれば優に800時間以上。丸1ヵ月以上を毎年電車の中で過ごしている計算です。

継続雇用で働く予定なので、リタイアは6年先。「この通勤を、あと何年も続けられるだろうか」――そう考えたとき、定年まで残された時間や、再雇用後に下がる収入のことが、急に現実味を帯びてきました。

そんなとき、ちょっとした好奇心から、かつて検討したマンションの価格を調べてみました。ここ数年の不動産価格高騰のニュースを見て気になっていたのですが、購入当時より大きく値上がりしていました。一方、自宅を査定に出すと、購入時よりやや低い水準とのこと。

もちろん、不動産価格の上昇は結果論です。ただ、田中さんの胸に残ったのは「価格差」だけではありません。「時間を買う」という発想を、当時は持っていなかったのではないか——そんな思いに気がついたのです。