将来のために、と投資を始める人が増えました。しかし、投資によって資産は増やせても、足下の家計が破綻するケースもあって……。本記事ではAさんの事例とともに、資産運用の注意点について、FPオフィスツクル代表・内田英子氏が解説します。※本記事で取り上げている事例は、複数の相談をもとにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から一部脚色を加えて記事化しています。読者の皆さまに役立つ知識や視点をお届けすることを目的としています。個別事例の具体的な取り扱いは、税理士・弁護士・司法書士など専門家にご相談ください。
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離婚、そして財産分与
離婚協議で最も揉めたのは財産分与でした。Aさんが運用していた金融資産も共有財産とみなされ、原則として半分に分割されます。結果として、資産は望まないタイミングで売却を余儀なくされました。さらに養育費の支払いも始まり、離婚後のAさんは住宅ローンも抱えたまま、投資に回す余力を失ったのです。
「投資を継続できていたのは、家計を支えてくれていた妻のおかげだったのか」
Aさんははじめて自分が失ったものの大きさに気づき、膝をついてうなだれるほかありませんでした。
原因は、投資ではなく「家計設計」の失敗
Aさんのケースは、運用に失敗していたわけではありません。むしろ市場を読み、着実に資産を増やすことには成功していました。真の問題は、投資を始める前に整えるべき「家計の設計」が欠けていた点にあります。
原因1:目的別にお金をわけなかった
お金には「役割」があります。生活費、緊急時の備え、数年以内に使う予定の準備資金、そして老後や将来のための長期資金や余剰資金。これらはすべて性質が異なり、適切な持ち方も異なります。
投資に充てていいのは、長期資金もしくは余剰資金であるのがセオリーです。Aさんは、生活費の全体像がみえていなかったうえに、ほとんどすべての金融資産を投資に充てていました。本来であれば投資に充てるべきではない、子どもの教育費も投資に回してしまっていたのです。A家の場合、子どもの教育費は生活費もしくは準備資金にあたります。これらは、しっかりと予算を確保したうえで、元本割れのリスクがある投資ではなく、確実性の高い現預金でもっておくべきものです。値上がりを期待して準備資金まで投資に回した結果、必要なときに現金化できず、妻に負担が集中してしまいました。
原因2:家計の役割分担の偏り
Aさんは「資産を増やしている」という自負がありましたが、その「増えるまでの時間」を支えていたのは妻のBさんでした。家計はチームプレーです。どちらか一方が将来の夢に投資し、もう一方が現実の支払いに追われるという構図は、いずれ信頼関係を損ないます。投資額を増やす前に、それぞれの負担割合を定期的に見直し、夫婦で共有しておく必要がありました。
原因3:出口設計がない
投資を行うとき、投資額にばかり注目しがちですが、同様に重要なのは「いつ、どのようなタイミングで、どのように取り崩すか」という出口設計です。Aさんの出口設計はあいまいで、具体的な計画がありませんでした。離婚という予期せぬ出口を強いられたことで、複利の効果も運用計画も失ってしまったのです。
投資計画は「続けられること」を前提として設計すべきものです。入口(拠出)ばかりに気を取られ、出口(取り崩し)を考えていないと、最終的に大きな損失につながりかねません。