「元気なうちになるべく早く年金を受け取りたい」と考える人にとって、年金の繰上げ受給は有効な選択肢でしょう。また、繰上げの減額率が緩和されたことで「年金繰上げはお得」というイメージも広まっているようです。しかし、安易な繰上げ受給は思わぬ悲劇を招くかもしれません。「年金は繰上げ受給のほうが得」と信じて60歳から受給を開始した男性の事例から、年金繰上げ受給の注意点を見ていきましょう。
厚生年金がもらえない!? なんで?…年金月14.5万円と月給38万円で“悠々自適な老後”の63歳男性、ハローワークで知った「まさかの事実」に後悔【社労士CFPが警鐘】
ハローワークで告げられた「まさかの事実」
「ひとまずなんとかなりそうだ」と安心したのもつかの間、ハローワークの窓口でまさかの事実を告げられます。
なんと、失業の認定を受けて基本手当を受給すると、繰上げ受給している年金のうち「老齢厚生年金」は受け取ることができないと言うのです。その間、支給停止されない老齢基礎年金と基本手当での生活になります。
「厚生年金がもらえない!? えっ、なんで?」
雇用保険の給付との調整
65歳よりも前に受給できる老齢厚生年金は、雇用保険の給付(基本手当・高年齢雇用継続給付)を受給することによって、支給が調整されます。これによりAさんは、基本手当の受給期間中、せっかく繰上げをした老齢厚生年金を受給することができません。
もっとも、支給停止となる年金は老齢厚生年金のみで、しかも繰上げで減額されているため、基本手当のほうが額も高くなりやすいと言え、実際、Aさんも基本手当のほうが高くなる計算です。
しかし、もしもAさんが繰上げをしていなければ、基本手当をそのまま受け取れるのはもちろん、65歳からは減額・調整されていない年金を受給できていました。
年金繰上げ受給は、退職や失業という予想外の事態が発生した場合、他の給付との調整リスクがあることを認識しておく必要があるでしょう。
減額以外の注意点も…年金繰上げ受給の注意点
Aさん自身、繰上げ受給の手続きのために年金事務所で訪れた際、説明はひと通り聞いていたはずです。しかし、減額率や減額による受給累計額の逆転時期のことばかりが気になっていたため、雇用保険との調整など、その他の注意点はすっかり忘れていました。
失業給付との調整によって厚生年金を受け取ることができず、さらに65歳以降の年金も繰上げ減額により減額される……退職前は繰上げして正解だったと満足していたはずのAさんも、ここで後悔の念に苛まれます。
当初は65歳まで見込んでいた給与収入も63歳での退職によってなくなってしまいました。再就職をして収入を得なければやっていけないかもしれないと焦りが募るようになり、必死に求職活動をするのでした。
年金は一度繰上げ請求をすると、取り消すことができません。「給与と年金の両方を受け取ろう」と考えても、65歳前の失業という潜在的なリスクに加えて、雇用保険との調整という注意点もあります。
年金の繰上げ受給を検討する人は、自身に該当する注意点はすべて、慎重に確認しておく必要があるでしょう。
五十嵐 義典
特定社会保険労務士/CFP
株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役
