妻は「年収減への不安と責任感」で懸命に努力も、広がる夫婦のズレ

暁子さんがミニマルライフに舵を切ったきっかけは、5年前のこと。その年、一朗さんは勤め先の等級(グレード)見直しにより、年収が3割ほど下がりました。

「この先、何があるかわからない……」

最初は、暁子さんも不安が先に立ったといいます。ただ、その不安は、立ち止まる方向には向きませんでした。子どもがいない夫婦にとって、老後の生活を支えるのは夫婦2人だけ、と強く意識してきました。

長年、家計を管理してきた暁子さんにとって、「今まで以上に、私がきちんと守らなければ」という責任感が、むしろ強まったのです。そこで始めたのが、ミニマルライフでした。

物を減らせば管理しやすい。支出を抑えれば、将来の見通しが立つ。成果が目に見えることで、不安は少しずつ落ち着いていきました。一方で、投資については、最初から選択肢にありませんでした。「増えるかもしれない」よりも、「減るかもしれない」リスクのほうが、どうしても大きく感じられたからです。

増えなくてもいい。減らなければ成功。そう考えて預貯金を積み上げ、結婚後の長い家計管理の結果として、気づけば2,300万円になっていました。さらに暁子さんは、ミニマルライフに関する資格も取得し、将来につながればという淡い思いも抱いていたといいます。

しかし、一朗さんの中には、別の感覚が芽生えていました。

「不安なのはわかる。でも、ここまで切り詰めなくてもいいのではないか」

たくさんのことを「いらない」と切り捨ててしまう。それで本当にいいのだろうか――そんな違和感です。ただ、その思いを言葉にすることは、次第に難しくなっていきました。同じ家計簿を見て、同じ数字を共有していても、安心の作り方は夫婦で少しずつズレていったのです。