フキハラ(不機嫌ハラスメント)とは言葉のとおり、不機嫌な態度や言動を意図的または無意識にぶつけることで、相手に精神的な苦痛や圧力を与える行為を指します。この「フキハラ」について、配偶者からの被害に悩まされている人も少なくないようです。朝日新聞取材班による著書『ルポ 熟年離婚』(朝日新聞出版)より、年上妻のフキハラに怯える50代夫の事例を紹介します。
妻に話しかけるときは「ごめんなさい」から入る…妻の「フキハラ」に怯える50代男性の“後悔の日々”【ルポ】
「あのとき、何もしてくれなかったじゃないか」妻が抱く恨み
妻がいつ不機嫌になるのかは、予測がつかなかった。普通に会話をしていても、だんだん声が大きくなっていき、結局は怒気を含む。
「あのとき、何もしてくれなかったじゃないか」。かつて育児で抱えた不満を、繰り返しなじられた。
妻はいちど機嫌を損ねると、翌朝になるまでは収まらなかった。子どもの前でもいらだちを隠さないので、男性は違う部屋に行き、息を潜めて過ごした。
不機嫌になる「スイッチ」は、日常のささいなところにちりばめられていた。妻の中では、シャンプーやリンス、冷蔵庫の調味料などの並び順が厳密に決まっているようで、それを少しでもずらすと、「前も言っただろ」と、大きなため息や物音が聞こえた。
買い物に行った男性が、いつも使っているのとは違うメーカーのバターや牛乳などを買ってきたときも、ダメだった。
「気が付けば、何をしても否定から入られるようになりました」と男性は振り返る。
家族で食事に行ったり、旅行に行ったりするときに、計画を立て、手配をするのは男性の役割だった。
希望を聞くと「何でも良い」と言われる。いざ出かけると、妻は必ず「あっちのほうが良かった」「ここには子どもの遊び場がない」などと口にした。
パソコンなどの家電の調子が悪くなると、こちらは何もしていないのに、妻は男性を責めるような口ぶりになり、また不機嫌になった。はじめは機嫌を良くしてもらおうと努めもした。だが、誕生日プレゼントでバッグを買ったときも「別にこんなの欲しくない」。
結婚して10年が経ったころには、夫婦間のコミュニケーションがほぼなくなった。趣味のドラマを見ている妻に、一度「これ、どの辺が面白いの?」と聞いたことがある。他意はなかったが、妻は顔をしかめながら「放っといて」と答えた。
そんなこと言われても…夫の心が折れそうになった瞬間
ごまかしながらやり過ごしていたが、いよいよ心が折れそうになった瞬間がある。
医療従事者の男性はコロナ対応に追われ、連日疲れ果てていた。あるとき、妻が言った。
「絶対に感染してくるな。ウイルスや菌を持ち込んでほしくないから、家に帰ってくるな」
「そんなこと言われてもね、という感じですね」と男性は苦笑する。