「あのとき、何もしてくれなかったじゃないか」妻が抱く恨み

妻がいつ不機嫌になるのかは、予測がつかなかった。普通に会話をしていても、だんだん声が大きくなっていき、結局は怒気を含む。

「あのとき、何もしてくれなかったじゃないか」。かつて育児で抱えた不満を、繰り返しなじられた。

妻はいちど機嫌を損ねると、翌朝になるまでは収まらなかった。子どもの前でもいらだちを隠さないので、男性は違う部屋に行き、息を潜めて過ごした。

不機嫌になる「スイッチ」は、日常のささいなところにちりばめられていた。妻の中では、シャンプーやリンス、冷蔵庫の調味料などの並び順が厳密に決まっているようで、それを少しでもずらすと、「前も言っただろ」と、大きなため息や物音が聞こえた。

買い物に行った男性が、いつも使っているのとは違うメーカーのバターや牛乳などを買ってきたときも、ダメだった。

「気が付けば、何をしても否定から入られるようになりました」と男性は振り返る。

家族で食事に行ったり、旅行に行ったりするときに、計画を立て、手配をするのは男性の役割だった。

希望を聞くと「何でも良い」と言われる。いざ出かけると、妻は必ず「あっちのほうが良かった」「ここには子どもの遊び場がない」などと口にした。

パソコンなどの家電の調子が悪くなると、こちらは何もしていないのに、妻は男性を責めるような口ぶりになり、また不機嫌になった。はじめは機嫌を良くしてもらおうと努めもした。だが、誕生日プレゼントでバッグを買ったときも「別にこんなの欲しくない」。

結婚して10年が経ったころには、夫婦間のコミュニケーションがほぼなくなった。趣味のドラマを見ている妻に、一度「これ、どの辺が面白いの?」と聞いたことがある。他意はなかったが、妻は顔をしかめながら「放っといて」と答えた。

そんなこと言われても…夫の心が折れそうになった瞬間

ごまかしながらやり過ごしていたが、いよいよ心が折れそうになった瞬間がある。

医療従事者の男性はコロナ対応に追われ、連日疲れ果てていた。あるとき、妻が言った。

「絶対に感染してくるな。ウイルスや菌を持ち込んでほしくないから、家に帰ってくるな」

「そんなこと言われてもね、という感じですね」と男性は苦笑する。