タワマンに戻りたい…“理想の住まい”に潜んでいた想定外

引っ越しから数週間が経ち、段ボールの山もようやく片付き、近藤さん一家は少しずつ新しい戸建て生活に馴染み始めました。

たしかに、環境としては申し分ありません。息子は家のなかを自由に走り回り、足音を気にする必要もありません。タワマン時代のように、重い荷物を抱えて長いエレベーター待ちをすることもありません。

しかし、日々の暮らしのなかで、これまで想像もしていなかった「戸建てならではの負担」が見えてきました。

思っていた以上に手間の多い“戸建ての管理”

最初に気付いたのは、ゴミ出しの不便さでした。タワマンには当たり前のように24時間ゴミ置き場があり、出勤前でも帰宅後でも好きな時間に捨てられました。ところが戸建てでは、地域ごとに決まった曜日と時間が厳格に決まっています。共働きの近藤家では、この時間に合わせるのが思いのほか難しく、

「今日も間に合わなかった……」

そんな日が何度か続くことも。

さらに、庭や外構の手入れも予想以上でした。週末の朝、勇人さんは軍手をはめて草むしりを始めましたが、雑草は抜いても抜いても生えてきます。

また、防犯面でも不安が出てきます。タワマンでは、エントランス、受付、エレベーターホールと何重ものチェックがあり、安心感は絶対的でした。一方、戸建てでは自分たちでセキュリティサービスを導入し、補助錠や防犯ガラスを付けるなど対策しても、ふとした瞬間に「本当に大丈夫だろうか」と不安がよぎります。

そして決定的だったのが、設備トラブルへの対応でした。

ある日、給湯器の調子が悪くなり、お湯が急に出なくなるトラブルが発生。タワマン時代なら管理会社に連絡すればすぐに業者が来てくれましたが、戸建てでは全て自分で手配しなければなりません。夕方から何社も電話をかけ、ようやく翌日の訪問が決まったものの、そのあいだは不便さを我慢するしかありませんでした。

こうした小さな負担が積み重なり、勇人さんは次第にこう思うようになっていきました。

「タワマンでは当たり前だったことが、ここでは当たり前じゃないんだ。共働きでこの管理量はきついぞ……あぁ、タワマンに戻りたい」

子どものために選んだ戸建てでしたが、その裏には想定外の負担が潜んでいることに、近藤さんはようやく気がついたのでした。