金の切れ目が縁の切れ目

 関東に住む女性(51歳)は2024年9月、出版社に務める夫(57歳)との離婚調停を申し立てた。きっかけは「役職定年」だった。

出版社勤務の夫は編集者で、管理職だった。友達は少なく、飲みにも行かず、浮気もしない。一方で趣味にお金がかかった。古いレコードなどを集めるコレクターで、自室にこもってはネットオークションばかり見ていた。

怒りっぽく、家では、「うるさいな」「バカか」「クソが」とよく怒鳴った。「俺の稼ぎで食べているんだ。お前、一人じゃ何もできないだろう」と暴言も吐かれた。お金には細かく、電気代の明細を持ってきて「高すぎる。冷房をつけっぱなしにしていたんじゃないか」と文句を言う。自分のネット代は棚に上げていた。

長男が私立大付属の中高一貫校に進学したいと言い出し、相談してみた。「そんな金はない」「俺は私立には行かせてもらえなかった」という言葉がかえってきた。長男は父親に近づかなくなった。5年ほど前から家庭内別居になった。一軒家なので食事以外はできるだけ顔をあわせずに生活した。

コロナ禍でリモートワークとなった夫の部屋から、「こんなこともできないなんてお前、バカか」と部下を怒鳴る声が聞こえてきた。そのうちパワハラで訴えられるんじゃないかと心配していたら、23年4月、夫は会社から「役職定年」を宣告された。

50歳60歳など、ある年齢に達すると管理職の肩書が一律に外され、給料も下がる役職定年は、今も多くの企業が採用する。「肩叩き」ととらえる人もいるかもしれない。

夫は営業職へ異動となり、給料が2割近く減った。夫の部下がうつになったり、退職者が相次いだりしたため、事実上のリストラだったと後で知った。

その半年後、夫は女性に相談せずに広告会社に転職した。退職金の額は詳しく教えてくれない。転職先でも給料は変わらないと夫から聞いていたが、実際には2割減った。家のローンや保険の支払いなどを差し引くと、生活費のやり繰りが厳しくなった。