おれに任せて…無職の息子の“親孝行”に激怒

一方、もともと親想いのCさんは、手すりがない室内の段差や階段をツラそうに歩く両親のことが心配でした。

「せっかく住まわせてもらっているんだから、なにか両親の役に立ちたい」

実はCさん、ひとり暮らしのころから「DIY動画」を見漁るのが趣味でした。実家療養で精神的な余裕が生まれてきたCさんは「自分にもできるかも」と考えるように。

そしてついに、自分の貯金で室内段差スロープや手すりの材料を購入し、動画をみながら取りつけ作業を始めたのです。

父のAさんは当初、「再就職もせず、なにやってんだ!」と激怒しますが、妻Bさんから「気分転換で元気になったら働くかもしれない」となだめられ、渋々見守ることにしました。

一度は激怒したが…父の変化

Cさんはまず、階段や廊下、手洗い、浴室などに手すりを設置します。その出来栄えは、とても素人が施工したとは思えないほど丁寧でした。

汗を流しながら真剣に作業する息子の姿を見ていた両親は、次第にCさんを手伝うように。その過程で、AさんもDIYにハマっていきます。

最終的には作業の進め方の相談などで会話も増え、家族仲が良好になっていきました。

父の本音

Cさんが自宅に戻ってきた当初、Aさんは世間体を考えて腹が立ったと振り返ります。

しかし今では、Cさんが職場の人間関係をひとりで悩んでいたことを不憫に思うと同時に、最悪の決断をせず帰ってきてくれてよかったと安堵しているそうです。

また、Cさんの治療費は「自立支援医療」制度を使うことで、自己負担額が原則1割で済むことを知りました。ほかにも「障害者就業・生活支援センター」の存在など、サポート制度を知ることで、過度な不安は消えたといいます。

親子の「その後」

Cさんは地域の「障害者就業・生活支援センター」に通って再就職先を探した結果、実家から通勤できる工務店で働けることになりました。

Aさんは、Cさんが無事に働きはじめたら、その工務店にバリアフリーの工事を依頼すると、嬉しそうに教えてくれました。なお、自宅をバリアフリー化する際、工事の内容によっては所得税額の控除や固定資産税が減額され、さらに自治体によっては助成金が給付される制度があることも知ったそうです。

年を重ねると“想定外の事態”に遭遇しやすくなります。そしてそれは、外的要因によることも少なくありません。そんな“想定外”にも落ち着いて対応できるよう、家計収支の把握・アップデートを心がけておきましょう。

牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員