親子二代で奨学金…「老後資金より返済が先」という現実

さらに中村さんを悩ませているのが、高校3年生の息子さんが来春の大学進学を控え、奨学金利用を検討しているという事実です。

「自分の返済が終わらないうちに、子どもも奨学金を借りることになりそうで。親子二代で借金生活なんて、想像もしませんでした。兄貴は60歳手前で早期退職プログラムに応募し、上乗せ退職金と企業年金を手にしたそうです。こちらは退職金をあてにできず、老後資金より返済が先。同じ"定年"という言葉でも、まるで意味が違いますね……」

日本学生支援機構によると、返還猶予制度の利用者は年間数十万人規模にのぼり、返済期間が20年以上になる例も珍しくありません。中村さんのように、就職氷河期世代が社会構造の変化に翻弄され、返済が長期化するケースは決して少なくないのです。 

子ども世代、孫世代に伝えたい「奨学金との向き合い方」

中村さんは息子さんと、これから借りる奨学金について何度も話し合っているといいます。

「自分のときのように"なんとかなる"ではなく、ちゃんと計画を立てて返してほしい。給付型も含めて、できる限り情報を集めています。それでも、学びたい気持ちは応援したいですね」と複雑な表情を見せます。

奨学金は学びの機会を広げる制度である一方で、人生を左右する“負債”にもなり得ます。ファイナンシャルプランナーとして言えることは、奨学金の返済は単なる"教育費"ではなく、"将来のキャッシュフロー"に関わる大きなライフイベントだということです。

借りる前に知っておくべきポイントは次の2つです。

・「借りられる=安心」ではなく、「返す力を前提に借りる」視点が重要

・返済期間が20年を超えるケースもあるため、「教育費=親の支出」と「奨学金=子の負債」は別軸で考える必要がある

最近では、中村さんの時代にはなかった返済不要の給付型奨学金や、自治体・企業・財団が提供する支援制度が増えています。高校在学中に申し込める「予約型給付奨学金」など、早い段階で情報を集めることが重要です。

家計全体を見通し、返済シミュレーションや給付型奨学金の情報収集を早めに行うこと。それが、親子双方の安心につながり、次世代への小さな希望となるのです。

中村さんは最後にこう語りました。

「兄貴のような人生は無理でも、せめて息子には自分と同じ思いをさせたくない。今ならまだ、給付型奨学金など選択肢を探せる。それが唯一の救いです」

三原 由紀
プレ定年専門FP®