バブル時代一世を風靡したキャッチコピー、「24時間戦えますか?」からもわかるように昭和世代のサラリーマンの“タフさ”は特徴的です。今回はそんなビジネスシーンの苛烈さを物語る昭和の表現を2つみてみましょう。本連載では、栗山圭介氏の著書『昭和が愛した言葉たち』(有隣堂)より、死語になってしまった昭和の言葉が持つ愛とユーモアをご紹介します。
夫の「グロッキー」を聞き流し、妻「で、出世はまだ?」…家庭にまで響いた、昭和の“疲労アピール”の虚しさ
バタンキュー
疲れてベッドや布団に倒れ込むこと。
解説
へとへとになりバタンと倒れ込むことを意味するが、どこにでも倒れていいというわけではない。倒れ込む際に打撲やケガなどを避けるため、着地点にクッション性があることを見極め、安心安全を確認してから行うプレイであるため、へとへとでありながらも冷静な判断力を残した状態で行わなければならない。
動作解析としては、①「バタン」と言いながら身体を倒しはじめ、重力に身を委ね、上体が目的地に着地した時点で②「キュー」と漏らす。本来、「バタン」+「キュー」の合わせ技なのだ。「キュー」は無事着地し、身の安全を確保したときに発する安堵の声。
実行においては、頭部と胴体が一直線の棒状になることがもっともダイナミックとされるが、恐怖心からか、膝をついてから、胸、顔の順に、コマ送りのようになだれ込む勇気のない者が多い。しかも、柔道の前受け身のように両手をつき、顎を引くとへとへと感が薄れてしまい、自身はもちろん、見る者にも物足りなさを感じさせてしまう。
実行後、着地点に思わず顔をすりすりしながら笑ってしまう至福感を味わうためには、そこそこ大胆なフォームで行いたい。相性抜群の兄弟語「グロッキー」と、カップリングで使用されることが多く、この2語が多用された1970年代のサラリーマンが、いかにモーレツかつエネルギッシュだったかを物語る貴重な言語である。
具体的な用法例
夫「ふ~っ、バタンキュー」
妻「私も、バタンキュー」
夫・妻「ふー、つかれたー」
夫「なぁ、いいだろ?ここで」
妻「バタンキューじゃないの?」
夫「これは別腹」
妻「もお~」
※別腹=腹がもうひとつあるように、好きなものは満腹でも食べられるという意味。
※もお〜=わくわく。
ひとくちメモ
バタンキューと言ってから着地点で平泳ぎやクロールの動作をする者や、うつ伏せの状態から反転して背泳ぎに転じる者もいる。無論、腕は回しにくい。
現代の言い換え
へろへろ。
栗山 圭介
作家、クリエイティブディレクター