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「訴訟ファンド」とは何か
最近になって経済誌や新聞で「訴訟ファンド」という言葉を目にすることが増えてきました。まだ耳慣れない方も多いと思いますが、仕組みはシンプルです。裁判を起こす企業や個人に代わり、外部の投資家や専門ファンドが弁護士費用や訴訟コストを肩代わりし、勝訴や和解で得られた金銭の一部をリターンとして受け取る。要するに、裁判に必要な資金を先に出す「投資モデル」です。
この考え方はもともと欧米で生まれました。国際仲裁や集団訴訟など、一件あたりの規模が巨額になる案件が舞台です。今では年金基金や大学基金のように長期運用を行う機関投資家が、自らの資産配分の一部として訴訟ファンドを組み入れています。たとえばハーバード大学の基金が2019年にOmni Bridgeway(旧IMF Bentham)のファンドに出資したのは有名な話で、従来の株や債券とまったく異なる値動きをするため、オルタナティブ投資の一分野として認められるようになったのです。
投資家が注目する二つのポイント
訴訟ファンドの魅力は、大きく二つに整理できます。
第一に「市場との相関が低い」点です。訴訟の進行や判決は株価や金利とは無関係ですから、分散投資の観点から組み入れる価値があります。あるデータでは、直近5年間の相関係数が -0.06。ほぼ無関係といって差し支えない数字です。株式や債券が0.3前後で動くことを考えれば、その独立性は明らかでしょう。
第二に「正の歪み(ポジティブ・スキューネス)」です。分散して案件を持てば、負けても損失は限定的。反対に勝った場合のリターンは2倍、3倍、さらにはそれ以上に膨らみます。つまり「損は小さく、勝てば大きい」という性質です。実際に海外のファンドの実績を見ると、この非対称性が平均リターンを押し上げています。
投資家の目線からすれば、「市場とは無関係に動き、勝てば爆発力がある」──その構造こそが訴訟ファンドの本質なのです。
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日本における「似た経験」──過払い金返還請求
日本では「訴訟ファンド」という言葉自体にまだ抵抗感を持つ方も多いでしょう。どうしても「危なそうだ」と思われがちです。しかし少し視点を変えると、すでに似たような資金循環を私たちは経験しています。代表例が、2000年代後半から2010年代前半にかけて社会現象となった過払い金返還請求です。
2006年の最高裁判決をきっかけに、高金利で貸し付けを行っていた消費者金融やクレジットカード会社に対し、払い過ぎた利息を取り戻す動きが全国に広がりました。累計で5兆円以上が返還されたといわれます。このとき、多くの法律事務所は広告や人員増強のために外部資金を調達し、案件処理に充てました。依頼者への報酬は回収後に支払い、資金提供者が利益を得る。構造だけ見れば、訴訟ファンドとほぼ同じなのです。
英国の「PPI問題」…第二の過払い金ブーム
日本での過払い金請求が沈静化した頃、英国でも似た現象が起きました。それがPPI(Payment Protection Insurance)問題です。ローンやクレジットカードに付帯する保険が、不要なのに販売されていたというものです。2011年に英最高裁が返金を認め、FCA(金融行動監視機構)が大規模な補償スキームを導入しました。最終的に6兆円規模が消費者に戻されたとされます。
この過程では、訴訟ファンドやクレームマネジメント会社(CMC)が大活躍しました。補償金の一部を手数料として受け取り、ビジネスモデルとして成立させたのです。中には、わずか数年で売上を数百億円に伸ばした企業もありました。「PPIの女王」と呼ばれる経営者が登場するほど、社会現象化したのです。
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そして現在…英国オートローン過払い金問題
そして今、英国で再び「過払い金」型の補償問題が浮上しています。対象は自動車ローン契約における販売店と金融機関の間の不透明な手数料。2025年8月の最高裁判決を受け、FCAは約4兆円規模の補償スキームを準備中です。PPIの再来と見る声も少なくなく、訴訟ファンドや請求支援ビジネスが再び脚光を浴びるのは時間の問題でしょう。
こうして俯瞰すると、訴訟ファンドやそれに類似した資金循環は「周期的」に現れていることが分かります。日本の過払い金返還請求、英国のPPI問題、そして現在進行中のオートローン問題。いずれも景気循環とは別に、法的判断を契機として巨額資金が動きました。
今回の英国オートローン問題が、次の「過払い金バブル」になるのかどうかはまだ見通せません。ただし兆しをいち早くとらえ、法と金融が交差するこの分野を理解することは、投資家にとって重要な視点であることは間違いないでしょう。次の「過払いキング/クイーン」となるのは誰か──その行方を注視することは、単なる法務問題を超えて投資テーマとしての意味を持ち始めています。
※詳細は、note記事でもご覧頂けます。

