プロレスラー・川田利明がラーメン屋経営に挑み、15年目を迎えた2025年。名義貸しの誘いを断り、すべて自分で切り盛りする道を選んだ先に待っていたのは、想像を超える過酷な現実だった。投資話、個人経営の厳しい現実、そして「お金が人を変える」プロレス業界でも目の当たりにした教訓――。著書『プロレスラー、ラーメン屋経営で地獄を見る』(宝島社)より、地獄を見ながらも店を続ける川田が、商売の裏側と覚悟の大切さを赤裸々に綴る。
プロレスラー川田利明、15年間続けたラーメン屋経営で「ここまでみじめな思いをさせるか」と感じた業者からのヘビーなひと言
「名義貸し」を断った理由
今から書く話は、芸能人やスポーツ選手だけの特権かもしれないが、こういうお店を出す時のひとつの王道パターンとして「名義貸し」という形がある。つまり「川田利明の店」としてオープンし、看板にも店内にも俺の写真が飾ってあるけれども、俺はイベントや取材がある日しか店には行かず、あとは厨房から経営までノータッチ、というシステムだ。
この形態だと、俺にはまったくリスクがない。名前を貸しているので、そのお金が毎月、入ってくるだけだ。こんな楽なシステムはない。でも、俺は単なる金儲けのために飲食業をチョイスしたわけではない。
全部、自分でやりたい。仕入れも、料理も、片付けも自分でやりたい……というところが原点なので、名義貸しビジネスにはこれっぽっちも興味がなかった。そこまで名前もない。
そもそも、そういう店で長続きしているケースって、ほとんどないんだ。だって名義料を払って、家賃を払って、従業員に給料を払って……と考えたら、どう考えたって、お金が回るはずがないでしょ? すべて自分でやっている俺の店ですら、ちっとも儲からないのに、そんな上手い話はないわけだ。
プロレス業界でも何度も見てきた光景
読者の人には思い浮かべてほしい。タレントやレスラーの名前や写真を前面に押し出したお店が、今どれだけ残っているか。そうそう、「お店を出すんだったら、投資しますよ!」という話は、ありがたいことに少なからずあったんだ。もし、この本を読んでいる方の中で、そうやってお金を出してくれる人がいるんだったら、それはもう、その話には絶対に乗るべきだ。
初期投資のリスクが減るんだから、開業へのハードルがかなり低くなる。もちろん、金を出す以上は少なからず経営にも口出しされるだろうけど、それは仕方のないこと。ただ、最初に「もし店の経営に失敗したとしても、投資していただいたお金は返済できませんよ」という約束だけは取り付けること。ここをうやむやにしてしまうと、のちのち面倒なことになるので、そこはキッチリとしておいたほうがいいだろう。
俺の場合、自分の名前を出してやる以上、誰がお金を出していようと、店の経営に失敗してしまったら「あの川田がラーメン屋を出して、すぐに潰したよ」と言われてしまう。そのリスクは自分で金を出そうと、スポンサーがいようと変わらない。でも、店が上手くいった場合、美味しいところはみんな投資した人に持っていかれてしまう。この世の中、お金を出した人間のほうが有利だからね。それに上手くいったら上手くいったで、人間関係がこじれてしまうことが多々ある。お金は人を変える。プロレス業界で何度も見てきた光景だ。
つまり、上手くいこうと失敗しようと、俺にはあんまり得がない話だと思ったので、投資の話は断ってしまった。ここまで書いてきたように、開店するためにこんなにもお金がかかるんだったら、たしかに投資してもらったほうが楽だったな、と思う反面、そうなっていたら、俺流の経営方針で出資者と揉めて、店は続いていなかっただろうな、とも思う。
なんだかんだ10年目を迎えたということは、きっと、これが俺にはベターなやり方だったんだろうな、と今となっては思うけど……読者の方で信用できる投資者がいるんだったら、ぜひ乗っかるべき。これは間違いない。