
大谷翔平選手を「超一流」たらしめる「マインドの強さ」
現在30歳の大谷翔平選手は、すでに数々の偉業を成し遂げています。最優秀選手賞を3度も受賞し、1シーズンでホームラン50本、盗塁50個を獲得する、メジャーリーグ初となる「50-50」を達成。所属チームであるドジャースは今年のワールドシリーズを制覇し、2023年に行われたWBCでは日本を世界一に導き、日本中が熱狂しました。年俸は日本円に直すと100億円を超え、大谷翔平選手は世界が認める紛れもない「超一流」といえます。
しかし、彼が「超一流」であるのは、「フィジカルの強さ」だけではありません。実際に、身体能力だけをみれば、彼を超える選手もいます。彼が「超一流」たるのは、自身が叶えたい夢に情熱を持ち、目標をシステムに沿って定め、目標達成のためのアクションを日々継続する「マインドの強さ」にあります。
つまり、スポーツに比べて「フィジカルの強さ」が特に必要のないビジネス界においては、あなたが“その業界の大谷翔平”になれるチャンスがあるのです。
“ブレない大谷”を作った「オープンウィンドウ64」
大谷選手を育てた花巻東高校の佐々木洋監督は、「オープンウィンドウ64」などを使って、夢や目標を具体的に設定するよう、部員たちに課しました。佐々木監督が選手たちに課した「オープンウィンドウ64」とは、別名マンダラートともいい、もともとは教育者の原田隆史氏が発案した、目標を具体的に行動に落とし込むための9×9マスからなるシートです。
シートの真ん中には、「心から価値を感じ、ワクワクしてやる気がみなぎるような目標」を書きます。そして、その目標を達成するために必要なもの(=「基礎思考」)を8つ、記入していきます。これで真ん中の9マスが埋まります。そして、今書いた8つの基礎思考を外側のマスの真ん中に置き、それぞれを達成するためにはどんなアクションが必要なのか、さらに掘り下げていきます。
彼が高校1年生のときに作成したオープンウィンドウ64の真ん中には、「ドラ18球団」と書かれていました。これは、「ドラフト1位で8球団から指名を受ける」という意味です。「8球団」となると、歴代最高の指名数です。
彼が「1位指名」の必要条件としたのは、
・キレ
・コントロール
・変化球
・体づくり
・メンタル
・人間性
・運
の8つです。
そして、この8つを達成するために、さらに具体的な「アクション」を設定しました。たとえば、「スピード160km/h」を叶えるためのアクションは、「体幹強化」や「肩周りの強化」「ピッチングを増やす」など。「運」を叶えるためのアクションは、「プラス思考」「ゴミ拾い」「応援される人間になる」などです。
具体化された「アクション」は、早速練習メニューに落とし込まれます。大谷選手は、毎日テーマを2つと、そのテーマを達成するための行動5つを準備して練習に臨んでいたといいます。そして、練習後はその結果を確認。必要があれば修正し、次の日に繋げます。「計画→実行→確認→改善」のルーティンは、まさに「PDCAサイクル」です。大谷は高校時代から日ハム時代の8年間、これを愚直に繰り返しました。おそらく、MLBでも同じように実践しているのではないでしょうか。
実際には、メジャー挑戦を宣言していたことから1球団からの指名となりましたが、見事に1位指名の夢は現実のものとなりました。また、高校時代に書いた別の人生設計シートには「26歳でワールドシリーズを制覇し結婚する」とあり、4年遅れではありますが2024年にどちらも達成しています。
夢の実現には、目標達成の“連鎖”が必要です。「オープンウィンドウ64」を教わった部員たちは皆、懸命に取り組んだのだと思いますが、特に大谷選手は夢を具体的な「目標」「アクション」として「見える化」し、日々「情熱」を持って実践し続けたことが飛躍に繋がったと考えられます。
彼が高校3年生のときに作成した人生設計シートには、「野球界の歴史を変える」「俺がこの道の開拓者になる」と大きく書かれています。夢や目標を具体的に設定するだけでなく、達成への「情熱」が感じられます。
「夢は近づくと目標に変わる」というのはイチローの名言ですが、その言葉どおり、夢を目標にし、目標の達成を積み上げることで、大谷選手は夢を現実のものとしました。
「ビジネス界の大谷」になるために
私たちが「大谷翔平」そのものになることは不可能です。しかし、先述のように、「身体能力」が必要とされないビジネスシーンなら、彼が持つマインドを育てることで誰しも「業界内の大谷翔平」になることができます。
まずは、「夢」を決めましょう。大谷選手のように、「自分はこうなりたい」「こんな結果を出したい」とワクワクできるような、情熱を持てる夢です。次に、夢を叶えるために必要な「目標」を具体的に決めましょう。たとえば、半年後に退社、1年後に創業、5年後にIPOなどです。そして、目標達成に必要な「アクション」を書き出しましょう。
ここまでできれば、「夢」の7割が達成しているといっても過言ではないでしょう。しかし、残りの3割が難関です。設定した「アクション」を実践し、「継続」することが必要だからです。これには、強い「精神力」が求められます。アクションを実践していくうえでは、「仕事環境」「人間関係」「自分への甘さ」「誘惑」など、それを阻むものがたくさん出てきます。これを乗り越えるには、「情熱」「がむしゃらさ」が必要です。
大谷選手の「二刀流」には当初批判も少なくありませんでしたが、彼はそうした批判も乗り越えメジャーでも二刀流選手として活躍しています。
彼の人生設計シートには、「俺がやらなくて誰がやる」「悔いのない人生に」と書かれています。これは、「夢」が未達成なままで悔いが残らないよう、「がむしゃら」に目標に立ち向かい必ず実現するのだという強い思いの現れです。
こうした強い思いをもって目標を達成していれば、だんだんと周囲の人間や組織があなたの「夢」を後押ししてくれるようになるでしょう。夢への「情熱」と愚直なまでの「継続」する姿勢に周りが共感し、サポーターとなり、あなたの「夢」は「現実」のものとなるのです。
「悔いのない人生」のために、「今」スタートを切る
年齢を重ねると、「がむしゃら」も難しくなっていきます。その分「経験」が増えますが、経験は新しいことを生みません。経験という鎖が、「夢」を阻害し始めるのです。
そうなる前に今、行動することが大切です。「夢」の発見は、早ければ早いほどよいといえます。「目標」を設定し、「アクション」に落とし込み、とにかく始めてみましょう。目標達成には挫折もつきものですが、そのときは「夢」そのものを修正するのではなく、目標やアクションを修正すればいいのです。
日々のアクションの継続は簡単なことではありませんが、これを支えるのが夢への「情熱」と「精神力」です。オープンウィンドウ64を作成する際には、こうした「情熱」を思い起こさせ、「精神力」を鍛えるアクションも書き出してみるといいでしょう。
今回述べたような、達成のための目標を定め、アクションを継続する「情熱」と「がむしゃらさ」があれば、「ビジネス界の大谷翔平」となるのも夢ではないといえます。
著者:東條 観治
MASTコンサルティング株式会社 相談役/中小企業診断士
1962年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事にて国内外の事業会社社長、経営、M&Aなど多岐に亘る業務に従事。執行役員本部長、地域責任者ののち顧問。2023年に退任。2010年に中小企業診断士を取得。住友商事退任後は数社の企業顧問・社外取締役などで中小企業を支援。日本の中小企業のさらなる発展、事業継承やM&A、業務改善・組織改善、海外進出支援など、幅広い分野で中小企業を積極支援している。
提供:ⒸイツトナLIVES/シャープファイナンス