
法人の借り入れと金利変動の仕組み
法人の資金調達において重要なのが銀行からの借入金利。この利率は、各銀行の基準金利(プライムレート)をもとに、企業の業績や取引状況、担保の有無などを考慮して、借り入れのたびに個別に決定されます。銀行の事業性融資の金利は一般的に0.8%~3.0%程度です。
また、中小企業の主な借り入れ方法である「証書貸付」は、法人のプロパー融資の場合、ほとんどが「変動金利型」の契約です。基準金利が各銀行で見直され、上昇することになった場合、連動して貸出金利も上がります。その金利をもとに、次回以降の返済金額が増えるという仕組みとなっています。
貸出金利上昇の影響と「6つの対策」
金利の上昇にあたって、企業が直面するのは「金利負担による経費の増加」です。新規の借入金利のみならず、既存の借り入れの返済においても負担増加が見込まれます。銀行側の利上げ措置は、基本的に翌月返済分から支払金額に反映されるため、財政基盤の弱い企業にとっては負担もより大きなものとなると考えられます。また、金利負担の増加は設備投資の負担増につながり、競争力の低下や成長機会を逃す要因にもなります。
というのも、多様な資金調達が可能で、かつ資金力のある大企業に比べ、資金調達を銀行からの借り入れに依存する中小企業は、金利上昇の影響を受けやすいといえます。そのため、価格競争力や商品・サービスの質の面で劣勢になり、成長の機会を逸してしまうのです。
そのような事態を極力避けるために、金利上昇に対する事業者側の対策として今すぐ取り組むべき6つの対策を紹介します。
1.借入金の圧縮の検討
過剰な借入金を返済し、最適な借入金額に抑えることで、金利負担を軽減させることができます。月次資金繰り表を作成し、自社の適正な運転資金の金額を把握しましょう。余剰資金があれば長期借入金の返済に充当することで、年間の支払利息を減らすことが可能になります。実際にある製造業の企業では、遊休資産の売却金を借入金返済に充て、年間の支払利息を半減させた事例もあります。
2.固定金利型の借り入れの活用
新規借り入れを検討する際、固定金利型の借り入れをすることで金利上昇リスクを回避できます。信用保証協会の保証付き融資や、都道府県の制度融資には固定金利の融資商品が多くあります。不動産購入や大型の設備投資など借入期間が長期にわたる場合は、保証付き融資や制度融資を優先的に活用しましょう。ただし、利上げ局面では固定金利型の借り入れは高いレート設定になる場合も多いため、借り入れ時に十分な検討が必要です。
3.取引金融機関との金利交渉
変動金利型の借り入れについては、企業の財務状況などの状況により、約定利率低減の交渉が可能な場合があります。変動の前提となる契約利率を低減することは、支払利息の金額に大きく影響するため、一度取引金融機関に相談することも検討しましょう。契約金利が下がれば、毎月の支払利息額が大幅に軽減される可能性があります。
4.自社の資金繰りに見合った借り入れ方法の適正化
現在の資金繰り状況を踏まえ、現在の借り入れ方法がその企業に適しているかを確認しましょう。たとえば証書貸付だけでなく、当座貸越や手形貸付などの短期継続融資を組み合わせることで、適切な金利負担が実現するケースもあります。
また、長期的に安定した資金を確保するために、事業計画を作成し、資本性借り入れの導入を検討することも有効です。
5.財務体質改善による収益力の強化
無駄な経費を削減し、適切なコストを打ち出すことで、金利負担が増えた場合にも安定した資金繰りが可能となります。また、商品・サービスの付加価値を向上させ、適切な価格設定を行うことも重要です。利益率の改善は、金利上昇を乗り越える有効な手段です。
6.補助金・助成金の活用
補助金・助成金を活用することで、新規設備投資時の借入額を削減できます。中小企業庁関連の補助金については、中小企業診断士のような専門家に相談することもよいでしょう。企業に合った最適な補助金制度などの提案を受けることが可能となります。
安定した経営基盤を築くために
現在の経済環境は金利上昇だけでなく、原材料コストの増加、賃金引き上げなど、経費の負担が増える要因が山積みとなっています。なかでも金利上昇への対応は急を要する問題です。まずは資金繰り状況を確認し、取引銀行との交渉から始めてみましょう。また、長期的な体力強化も欠かせません。新商品の開発や事業モデルの見直しを通して、収益力の高い経営基盤を築くことが重要です。
著者:丸山 学
MASTコンサルティング株式会社 執行役員/中小企業診断士
提供:ⒸイツトナLIVES/シャープファイナンス