令和5年度の司法統計によると、家庭裁判所へ持ち込まれた遺産分割争いの件数は13,872件でした。特にきょうだい間でのトラブルが多く、親が生きているときは仲の良かったきょうだいが遺産相続でトラブルになり「絶縁」してしまった、というケースも……。遺産を巡って実の姉と大揉めした男性の事例をみていきましょう。FPの山﨑裕佳子氏が解説します。
親父の遺産がそんなに少ないわけないだろ!…年収700万円の49歳サラリーマン〈遺産分割協議〉でブチ切れ→実家暮らしの55歳姉から告げられた「まさかの事実」に涙【FPが解説】
最後に実家に顔を出したのは3年前…両親と疎遠の49歳長男
和夫さん(仮名・49歳)の幼いころの夢は、電車の運転士になること。高校卒業後は鉄道会社に就職したいと考えていましたが、両親に反対されていました。
特に父親・滋さんの学歴信仰が強く、和夫さんが中学生に上がったころから「大学ぐらい卒業しないと、ろくな仕事につけないぞ」という言葉が口癖でした。
高校3年生になった和夫さんは「夢を叶えるために、高校卒業後は就職したい」と勇気を出して両親に伝えました。しかし案の定、猛反発をくらいます。
滋「親不孝者! ろくな人生にならないぞ。学費は全額出してやると言ってるんだから大学には行け。いい大学に入って、いい会社に入ることが親孝行だ」
父親に押し切られ、和夫さんは渋々地元の大学に進学することに。
大学卒業後、和夫さんは就職を機に実家を脱出。両親とは疎遠になりました。その後、30歳の時に結婚し、一男一女に恵まれます。仕事も順調で、44歳のときに課長に昇進。昨年の年収は700万円ほどでした。
最後に実家へ帰ったのは、3年前のお盆のことです。ただ、そのときも「長居するつもりはないから」と、和夫さんは日帰りで自宅に戻ってしまいました。
3年後…和夫さんのもとに1本の電話が
それから3年ほど経ったある日のこと。明け方近く、和夫さんはスマホの呼び出し音で目を覚ましました。寝ぼけまなこで画面を見ると、そこには実家で両親と同居する姉・真由美さん(仮名・55歳)の名前があります。
姉からはときどき、「元気にしてるの?」「話があるんだけど。次、いつ帰ってこれそう?」などとLINEで連絡が入っていたものの、のらりくらりとかわしてきた和夫さん。そんな姉からかかってきた電話に、和夫さんは嫌な予感がしました。
慌てて通話ボタンを押すと、姉は震える声で言いました。
真由美「もしもし? お父さんが、亡くなったよ」
和夫さんは姉の言葉に絶句。「え、なんで?」と問い返すのが精一杯です。
真由美「とにかく、できるだけ早く帰ってきて」
83歳でこの世を去った滋さんの通夜と葬儀は、滞りなく行われました。その後、母と姉から聞いた話によると、父は5年前から闘病生活を送っていたそうです。
真由美「何度も和夫に伝えようと思ったんだけれど、いつも忙しそうだし、時間を作ってもらえなくて……。お父さんは、『和夫は元気にしてるのか?』って、最期まであなたのことを気にしていたわよ」
疎遠にしていた父の思わぬエピソードを知り、和夫さんは思わずこみ上げてきた涙を押し殺しました。