最後に実家に顔を出したのは3年前…両親と疎遠の49歳長男

和夫さん(仮名・49歳)の幼いころの夢は、電車の運転士になること。高校卒業後は鉄道会社に就職したいと考えていましたが、両親に反対されていました。

特に父親・滋さんの学歴信仰が強く、和夫さんが中学生に上がったころから「大学ぐらい卒業しないと、ろくな仕事につけないぞ」という言葉が口癖でした。

高校3年生になった和夫さんは「夢を叶えるために、高校卒業後は就職したい」と勇気を出して両親に伝えました。しかし案の定、猛反発をくらいます。

「親不孝者! ろくな人生にならないぞ。学費は全額出してやると言ってるんだから大学には行け。いい大学に入って、いい会社に入ることが親孝行だ」

父親に押し切られ、和夫さんは渋々地元の大学に進学することに。

大学卒業後、和夫さんは就職を機に実家を脱出。両親とは疎遠になりました。その後、30歳の時に結婚し、一男一女に恵まれます。仕事も順調で、44歳のときに課長に昇進。昨年の年収は700万円ほどでした。

最後に実家へ帰ったのは、3年前のお盆のことです。ただ、そのときも「長居するつもりはないから」と、和夫さんは日帰りで自宅に戻ってしまいました。

3年後…和夫さんのもとに1本の電話が

それから3年ほど経ったある日のこと。明け方近く、和夫さんはスマホの呼び出し音で目を覚ましました。寝ぼけまなこで画面を見ると、そこには実家で両親と同居する姉・真由美さん(仮名・55歳)の名前があります。

姉からはときどき、「元気にしてるの?」「話があるんだけど。次、いつ帰ってこれそう?」などとLINEで連絡が入っていたものの、のらりくらりとかわしてきた和夫さん。そんな姉からかかってきた電話に、和夫さんは嫌な予感がしました。

慌てて通話ボタンを押すと、姉は震える声で言いました。

真由美「もしもし? お父さんが、亡くなったよ」

和夫さんは姉の言葉に絶句。「え、なんで?」と問い返すのが精一杯です。

真由美「とにかく、できるだけ早く帰ってきて」

83歳でこの世を去った滋さんの通夜と葬儀は、滞りなく行われました。その後、母と姉から聞いた話によると、父は5年前から闘病生活を送っていたそうです。

真由美「何度も和夫に伝えようと思ったんだけれど、いつも忙しそうだし、時間を作ってもらえなくて……。お父さんは、『和夫は元気にしてるのか?』って、最期まであなたのことを気にしていたわよ」

疎遠にしていた父の思わぬエピソードを知り、和夫さんは思わずこみ上げてきた涙を押し殺しました。