数日後…男性宅から“ピカピカの高級車”が消えていた

数日後、測量図面の書類に、署名と押印をもらうため、もう1度あの高級車のあるお隣さんのお宅を訪問しました。

家の前に着いたとき、思わず「あれっ?」と声が漏れました。あれだけ存在を主張していた高級車が、影も形もないのです。署名とハンコをもらう約束をしていたけれど、まさかドライブにでも出かけてしまったのだろうか? そんなふうに思いながらインターフォンを押すと、家主であるお隣さんが家から出てきました。

「あの、車はどうしたんですか?」

立ち入ったことなので聞くべきではないのでしょうが、つい、そんな疑問の言葉が口から飛び出してしまいました。

家主の男性は私の無礼を気にすることもなく、「ああ、あの車、手放したんです」と言うではありませんか。

「なぜです? あの車のためにお仕事の掛け持ちまでされていたのに」

「あれからいろいろ考えたんですけど……」

忙しすぎる毎日の中、そのお隣さんは、ふと自問自答したようです。あの車が好きだと思っていたけれど、本当にそうなのか、プライベートも休息も犠牲にしてまで持つべきものなのか、と。

そうして、自分の心に素直に従うことにしたのだそうです。

「僕にはあの車は重荷だったんです。考えてみたら、他人からチヤホヤされたいがためだけに車を所有していたということに気づいたんです。実はそれほどあの車が好きだったわけでもありませんでした。その証拠に、売ったらスッキリしたんです」

まさに重圧から解放されたといった晴れやかな顔で言いました。

平田 真義
土地家屋調査士