年末年始に(義)実家に帰省する人も多いと思います。直接会ったり、家を訪ねたりする機会だからこそできるちょっとしたこととは? ケアマネジャーの田中克典氏の著書『親への小さな恩返し』(主婦と生活社)より次の帰省時に実践できる小さな恩返しについて解説します。
親の手が届かない場所の掃除をする
高齢になればなるほど“手の届かない場所”は増えてきます。私が仕事で訪問する高齢者のお宅でも、掃除が行き届かなくなって汚れ放題になっている場所を目にすることがしばしばあります。思いつくままに挙げてみましょう――。
ベッドの下、照明器具の傘の上、エアコンのフィルター、換気扇、キッチンや風呂場の排水溝、ガスレンジの下や裏側、神棚、タンスの上、ベランダ、網戸……。
帰省したとき、もしも汚れている場所があったら掃除してあげてください。親にもできることがあれば協力してもらいましょう。わが子と一緒に家の中をきれいにすることで喜びも増すはずです。
滞在日数に余裕があれば、押し入れや納戸を掃除するのもおすすめです。自分が幼い頃に遊んだおもちゃや、学生時代の成績表などが出てくるかもしれません。そんな思い出の品々を話題にして親とお茶でも飲めば、会話もきっと弾むことでしょう。
トイレをすみずみまで掃除する
「実家のトイレが汚くなったなと思ったときに、母の老いを感じました」
と話していた50代の女性がいます。「ご不浄」という言い方もあるように、トイレは家の中で一番汚れやすい場所。常に清潔に保っておきたいですが、高齢になると「腰をかがめるのがツラい」「汚れが見えにくい」といった理由で、掃除が雑になりがちです。トイレの汚れは、親の老いを知るバロメーターといってもいいでしょう。
トイレは他人に見せたくない姿になる特殊な空間です。そういう場所の掃除は「年を取っても子の世話にはなりたくない」と考えている親にしてみれば、頼みにくい。だからこそ、頼まれる前に子の側から買って出ることに意味があります。
トイレをきれいに掃除してあげれば、親は喜びと同時に、「申し訳ない」という気持ちも抱きます。その気持ちを汲み取って、「親子だから気にしないで」と言葉を掛けてあげてください。これは心理学でいう“共感的理解”という態度で、相手との信頼関係を深めるコミュニケーション技法でもあります。恩返しをしたいと思う皆さんの慈愛が実直に親の心に伝わるでしょう。
掃除とともに、親がトイレを快適に使うための配慮も怠らないように。シャワートイレや暖房便座などの設備は整っていますか? 見落としやすいのは補充するトイレットペーパーの置き場所。トイレ内の高い棚の上にストックしている家を多く見受けますが、背伸びをして高所にあるものを取る動作は転倒の原因にもなります。市販のホルダーなどを使い、取りやすい位置にストックする工夫をしてください。
また、立ったまま洋式トイレで小をする男性もいます。これは飛沫が散ってトイレが汚れる原因の最たるもの。父親にも掃除の苦労をわかってもらい、座って用を足すことに慣れてもらいましょう。
庭の草むしりをする
高齢の親にとって庭の清掃は重労働。管理ができなくなり、雑草が生え放題になっている庭を、私も訪問先で見掛けることがあります。荒れた庭は、泥棒や詐欺師に「ここは高齢者の住居です」と教えるサインにもなりかねません。もしも実家に庭があるなら、子の出番です。
草むしりや落ち葉拾いは、腰を曲げるのがしんどい親でも、座面が360度回転する補助椅子(※絶対に立って上がらないこと!)があれば多少は作業がラクに。外の空気に触れながら一緒に作業すれば、親にとっても心地よい運動になるはず。
草むしりを終えたら、季節の花を植えてみてはどうでしょうか? 使わなくなった皿をバードフィーダー(餌台)として木の枝に置いておけば、小鳥が遊びに来るかもしれません。収穫という楽しみができる家庭菜園もおすすめ。
“育てる”という行為に、親なら張り合いを覚えるはずです。植物や小鳥を通じて生命力が感じられれば、庭は親にとって憩いの場所になるはずです。
田中克典
ケアマネジャー