一昔前までは、盛大に営むこともめずらしくなかった葬儀。しかし、現在は家族葬、一日葬、直葬など、葬儀の簡素化が進んでいます。こうした小さな葬儀には費用が安いといったメリットがある一方で、後悔するケースもあるようです。本記事では、Aさんの事例とともに、後悔しない葬儀について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。
家族葬なんてしなければ…年金月6万円だった享年85歳父の「葬儀」を、世帯年収500万円の50歳娘が後悔しているワケ【FPが解説】
父の人柄
Aさんの父は、自営業で小さな商店を経営していました。いまでは、ちょっとした買い物はコンビニエンスストア等で手軽に時間も問わずできますが、一昔前は個人商店が主流で、時には個人宅にご用聞きをし、配達していた時代でした。
Aさんの父は、お願いされると笑顔で引き受け、荷物がたった1つであっても配達してくれる、誰かのためにといつも考えているような人でした。そのため、儲かっているとはいいがたく、なんとか生活できる程度で暮らしていました。母はAさんが学生時代に亡くなっており、Aさん自身も実家にいたころは家が貧しくて、父子家庭であったこともあり、苦労をした経験があります。
時代は変化し、世代交代すると、大きな商業施設が主流となり、父が年金を受給する年齢になるころにはお店を閉めることになりました。あとから聞いたはなしですが、父は、お店を閉めたものの手先が器用なこともあって、晩年はなんでも屋さんのように近所の人から困りごとの相談、修理等して、たくさんの人に慕われていたようです。
近所の人が押しかけてきて…
そんな父が亡くなり、家族葬を選んだAさん。父親の家の整理をするため実家を訪れたとき、近所の人が訪れてきました。
「どうして葬儀に声がけしてくれなかったのか」「お世話になったから、最期の別れをしたかった」口々に言われ、線香の1本でもあげさせてほしいと訪れてきます。
Aさんの家から実家までは車で3時間程度離れているため、常時来ることができません。それにもかかわらず、近所の人がひっきりなしに訪れるため、片付けは一向に進みませんでした。それどころか、その日来られない人が次はいつ来るのかと聞いてきます。なかには最期の別れができなかったことを自分には会わせたくなかったのかと嫌味をいう人まで……。
近所の人に生前の父の意向の話をすれば事情は理解してくれるものの、Aさんは必要以上に実家を往復し、片付けと対応に疲れ果ててしまいました。
「こんなことになるなら、一般葬にすればよかった……」いまはそう悔やんでいるそうです。