学びながらすぐ問いを立てることで理解が深まる

「エラボレーティブ・インタロゲーション」という言葉をご存じですか? まだ日本ではなじみのない言葉ですが、直訳すると「精緻な質問(elaborative interrogation)」となります(余談ですが、「?(疑問符)」のことを英語で「interrogation mark」と言います)。


エラボレーティブ・インタロゲーションとは、学習内容について自らの問いかけを指します。学習内容に対して「なぜ」「どうして」といった問いを立て、それに答えを出すべく調べていくことで学習を深めていく手法です。


たとえば、鎌倉幕府に関して成立時期や主要人物などの基本的な事項を教科書から学んだとします。「なぜ鎌倉幕府は成立したのか?」「どのような人物や出来事が鎌倉幕府の歴史に影響を与えたのか?」このように問いを立てるのがエラボレーティブ・インタロゲーションです。自分で調べていくことにより、知識の定着率がアップし、記憶に残りやすくなります。


また、問いを立てることで、関連情報を併せてインプットすることが習慣づけられ、より理解が深まっていくのです。エラボレーティブ・インタロゲーションでの問いの立て方のポイントは、1つの側面からでなく、複数の側面から広げていくことです。鎌倉幕府についてなら、さらに「前後の時代」「同時代の文化など別の側面」といったイメージを持つと問いが立てやすくなります。


「平安時代のどのような出来事が鎌倉幕府の成立に影響を与えたか?」「鎌倉幕府の影響は次の時代にどのように表れたか?」「鎌倉幕府の時代に花開いた文化は、政治からどのような影響を受けていたか?」「この時代、他の地域ではどのような出来事が起こっていたか?」この問いの立て方は歴史だけでなく、他の科目でも応用可能です。


英語の場合は、「relation という単語は、形容詞になったときにどのような形に変化するか?」「同じ変化の形になる別の単語には、どのようなものがあるか?」というように、問いのバリエーションを増やしていくと、学習内容が充実していきます。テネシー工科大学心理学科教授のバリー・スタイン氏が行なった興味深い研究があります。彼らは小学5年生の子どもたちに次の2つの文を見せました。


(1)力持ちの男が、友達がピアノを動かすのを手伝った。


(2)力持ちの男が、朝食の間に新聞を読んだ。


「2つの文のうち覚えやすかったのはどちらか?」という質問をしたところ、成績のよい子どもは「1」、そうでない子どもは「2」と答える傾向にあったといいます。何となく推測がついた人もいるかもしれません。一見すると文自体が短い「2」が覚えやすそうですが、内容をしっかり見てみると、前半と後半を関連付けられるのは「1」であることがわかります。


成績のよい子は「力持ちだからピアノを動かすのを手伝ったんだろう」と意味を持たせて記憶できるため、「1」を選びます。それができない子は、単純な文の長さで「2」を選んでしまうのです。勉強が苦手だという人はみんな精緻化(持っている知識と新しい知識を関連づけること)ができていない傾向にあります。


とはいっても、精緻化が苦手な人でも、エラボレーティブ・インタロゲーションに繰り返し挑戦することで感覚はつかんでいけます。理解を深め、記憶を定着させるエラボレーティブ・インタロゲーションは、ストレスのない学習の強い味方となってくれます。モヤモヤを残さないことで、一回一回の学習をすっきりとした状態で終えることができ、次回の勉強のモチベーションも高まるのです。エラボレーティブ・インタロゲーションをうまく活用して、長期記憶をどんどん強化していきましょう。

粂原圭太郎
オンライン個別指導塾「となりにコーチ」の代表講師