実は親と子で大きく異なる「介護」への認識

生命保険文化センターによると、親の介護に対して、約75%の人が不安を感じているそうです。その不安のほとんどが、肉体的・精神的な部分に関するもの。また、なかには親の介護で施設を利用することに罪悪感を抱く人もいます。

しかし、施設を活用することはまったく問題ありません。現在、日本の少子高齢化は深刻です。2000年に公的な介護保険制度をスタートしたのはその対策ともいえます。日本では社会全体で介護者を支えようとしており、“人の手を借りること”を後ろめたく感じる必要はないのです。

ただし、事前準備は欠かせません。金銭面の準備はもちろんですが、なによりも大切なのが、親子間で「共通認識」を持つことです。今回の事例は、この「共通認識」が不足していたことが喧嘩の大きな要因でした。

まず、親目線で考えると、介護施設への入居に対して抵抗感のある人は少なくありません。住み慣れた環境を離れることは大きなストレスでしょう。また親心として「子どもに迷惑をかけたくない」という気持ちもあるかもしれません。そのようななか、なにも聞かされずにいきなり「ここに引っ越せ」といわれても、なかなか素直に納得できないのではないでしょうか。

反対に、子ども目線で考えると、時間とお金をかけて育ててくれた親に対して、自分にできることがあればできる限りやってあげたいという思いはなんら不自然ではありません。Aさんなりの“できる限りのこと”が、近所の“施設入居への援助”だったというわけです。Aさんに悪意はまったくなく、Aさんなりの「親孝行」でした。

親であっても、子であっても、相手の考えていることをすべて把握できるわけではありません。「しっかり話しあって」「万が一に備える」ことがなによりも大切なのです。

親と離れて暮らせば、会話をする時間も年間を通して少なくなります。「こんな話はしづらい」と思う気持ちもわかります。ただ、お互いを大切に思うのであれば、きちんと言葉にして今後のことを話しましょう。

筆者の父は、59歳のときにガンで亡くなっています。もう10年以上前のことです。何の不自由もなく育ててくれた父に対して、社会人になってこれから親孝行したいと考えていた矢先の出来事でした。きちんと「ありがとう」を伝えられなかったのは、10年以上経った今でも心残りです。

あっという間に時間は過ぎます。今伝えられること、話せることは速やかに行動に移してほしいというのが、FPとしても、1人の人間としても願うことです。

なお、厚生労働省には「親が元気なうちから把握しておくべきこと」というチェックリストがあります。このリストの内容をベースに、親子で会話してみてはいかがでしょうか。