「地震で大破するかもしれないビル」のオーナーは、耐震工事に多額の費用がかかるため建て替えを計画していました。しかし、ひとりの借主が立退きを拒否したため、ついに訴訟へ発展。その結果、裁判所は立退き料の支払いと引き換えに、賃借物件からの立退きを認めました。では、裁判所が算出した「妥当な立退料」はいくらだったのでしょうか。弁護士の北村亮典氏が、実際の判例をもとに解説します。
家賃月5万円・築50年のビルで20年間「ゴルフ会員権売買」を行う借主、立退要請を断固拒否→訴訟へ…裁判所が命じた“妥当な”立退料【弁護士が判例解説】
「老朽化」だけでは正当事由にならない
本件のような建物の老朽化を解約の理由とする場合、老朽化だけでは正当事由は認められず、妥当な金額の「立退料」の提供が必要とされるケースが非常に多いです。
本件の事例は、東京地方裁判所平成24年11月1日判決をモチーフにした事例です。裁判所は、建物の老朽化が相当進んでおり、解体の必要性が高いことは認めつつも、長年賃借物件で事業を営んできた賃借人の利益も考慮し、立退き料の支払いと引き換えに、賃借物件からの立退きを認めました。
では、本件において裁判所は立退料をどのように算定したのでしょうか。
この裁判例においては、立退料について、不動産鑑定士による鑑定が行われています。その鑑定では、以下のように述べて、主に借家権価格を中心として立退き料を算定しています。
また、賃借人が貸室で事業を営んでいたことから、賃借人側は営業補償を加えるよう求めましたが、本件では、営業損失が発生する証拠はないとしてこれを認めませんでした。
賃貸物件の立退料の算定方法のひとつとして参考になる事例です。
【判旨】
1(立退料の金額)
鑑定の結果によると、本件貸室の借家権価格が372万円、通損補償額63万7,300円(工作物補償額21万9,600円、動産移転補償額6万9,900円、移転雑費補償額34万7,800円)の合計であると認められるところ、本件において、原告による解約の正当事由の補完としての立退料の金額は、上記の借家権価格の3分の2にあたる248万円と通損補償額63万7,300円の合計額311万7,300円とするのが相当である。
2(賃借人からの営業補償を加味すべきとの主張について)
被告らは、立退料は、鑑定の結果算出された金額に、開発利益の配分170万9,037円及び営業補償1,733万4,080円を加味するべきであると主張する。
しかしながら、本件において、前記の借家権価格及び通損補償額の他に、開発利益の配分額相当額を支払わせる必要があるとは認められないし、営業補償についても、本件貸室を明け渡すことにより被告らにその主張するような損失が生じる蓋然性が高いと認めるに証拠はなく、これを、上記金額に加味する必要があるとはいえない。
※この記事は、2018年9月1日時点の情報に基づいて書かれています(2024年9月11日再監修済)。
北村 亮典
大江・田中・大宅法律事務所
弁護士