弁護士が見抜けなかった、“明らかに誤った内容”の偽造書類

結論から言えば一審判決は、弁護士Yの不法行為責任(過失)を認めましたが、これに対して弁護士Yが控訴し、東京高裁は一審判決を覆し弁護士Yの責任は認めないという判断をしています。地裁と高裁の判断が分かれており際どい事例だったと見られますので、ここでは、弁護士Yの責任を認めた地裁判決の内容を主に紹介します。

この不動産取引において「地面師」から提供されていた所有者の住基カードや印鑑証明書などは当然ながら全て偽造されたものでしたが、登記申請が法務局に受理され、移転登記もなされていたため、弁護士がその書類の外観だけをみても偽造したものと見破ることは不可能な事案だったと見られます。

このため、一審判決でも、弁護士Yが、なりすました者から住民基本台帳カードの提示を受けて本人確認を行ったことについては、

不動産登記法及び同規則に定められた方法による本人確認は行われており、その内容も、申請者代理人として通常要求される程度のものを満たしているということができる。

と認定されています。

しかし、この事案では、取引の対象となった不動産は、所有者が相続によって取得したものであったため、その内容を示すための遺産分割協議書も売買契約において売主から買主に対して提供が必要な書類となっていました。

そして、不動産ブローカーBと自称売主がもってきた遺産分割協議書の内容は、

・相続関係説明図において被相続人の前妻の死亡日が「平成44年9月17日」とされている

・被相続人の死亡日が平成25年7月28日と記載されており、本件不動産の登記事項証明書に記載された相続開始日である平成25年2月28日と異なっていたり、相続開始日が、本件遺産分割協議書の作成日と同じ日である平成25年12月10日と記載されている

という明らかに誤った内容を含むものであり、そのままでは遺産分割協議に基づく登記申請に用いることができないことにつき容易に気付くことができる内容のものでした。