<前回記事> “人前では明るく振る舞わなきゃ” …つらくても笑ってしまう人へ。「それ、〈ポジティブの呪い〉だよ?」【心がラクになるヒント】 

自分から幸せを拒否しないで

愛されるのが怖い、幸せになるのが怖い。そんなとき、ついついやってしまうのが自分の好きな人は「こういう人」が好きなハズという考え方です。この「こういう人」の部分を自分とは違うタイプの人に設定しがちです。そして自暴自棄になって、相手を試したり、わざわざ嫌われたりしてしまいます。

笑顔に自信がない人は「みんな笑顔が可愛い人が好きなハズ!」と考えがち。そのとき「どうせ私は笑顔が可愛くないよ! だから私は愛されないんだ!」みたいに心が叫んでいます。そんなことないよ。あなたが真剣に取り組んでいるときの顔はとても素敵です。美味しそうにご飯を食べてるときの顔、とても愛らしいです。

スタイルに自信がない女性は「男性はみんな小さくて痩せてる人が好きなんでしょ!」と考えがち。そのとき「どうせ私は身長高くて大柄ですよ! だから私は愛されないんだ!」みたいに心が叫んでいます。そんなことないよ。身長が高いのも素敵。細くなくても素敵。癒し系の体型だって素敵です。

自分は明るくないと思っている男性は「みんな明るい太陽みたいな人が好きなんだ!」と考えがち。そのとき「どうせ僕は真面目でつまらない人間ですよ。面白いことも言えないし。だから僕は愛されないんだ」みたいに心が叫んでいます。そんなことないよ。むしろ明るくて社交的な人が苦手な人もいるんです。静かな時間を楽しめるパートナーを求めている人もいるかも。

傷つくのが怖いからって自分から先に幸せを拒否しないでくださいね。そうやって自分を守らなくていいんです。自分を求められない人だと決めつけないでください。個性的な服は求められない服ではないです。ベーシックな服が好きな人もいるし個性的な服が大好きな人もいます。「こういう個性的な柄の服を探してたんだ!」そういうことも、あります。

自分に〇×をつけない

ついつい私たちは、〇×の世界の住人になりがちです。笑顔は〇、泣き顔は×。ポジティブは〇、ネガティブは×。明るいは〇、暗いは×。ワクワクは〇、不安は×。そしていつの間にか×ばかり自分に付けてしまいます。悩んでいる自分は×。話すのが苦手な自分は×。可愛くない私は×。将来の夢がない私は×。それが癖になってしまうと、苦しいです。

そんなときは「晴れも雨も、両方大切」という言葉を胸に留めておいてください。私たちの生きているこの地球には晴れの日もあれば雨の日もあります。嵐の日だってあります。確かに雨の日や嵐の日は気分が凹みがちですが、雨や嵐も、地球にとっては必要なもの。雨は悪者、不必要なものではありませんよね?

昼と夜だってそう。夜は不必要なものではありませんよね?

太陽と月、光と影、春夏秋冬、すべて大切。片方だけ×を付けてジャッジして、悪者にする考え方は美しくないです。

私たちの心の中もそう。私たちの表情や感情もそう。どれも不必要なものはないんです。

ずっと楽しいことを望むけれど、その楽しい気持ちは、退屈や不快を知っているから楽しく感じることができます。悲しさや寂しさ、怒りを知っているから、喜びや優しさを感じることができます。

恋して愛したから、恋愛ソングに心を動かされ、失恋して別れが辛かったから、失恋ソングに支えられる。ひとりの孤独を知っているから、繋がったときに心が温かくなる。人といるのに疲れたから、ひとりの時間が心地良く感じられる。

私たちの感情、心はいつもカラフルで、ひとつの感情では生きられないワガママで面白い生き物です。光と影、晴れと雨、ポジティブとネガティブ。

全部味わいましょう。全部楽しんじゃおう。全部面白がっちゃおう。

生きるってそれらを味わうことだと思います。

吉井 奈々 
一般社団法人JCMA代表理事、コミュニケーションと心の専門家

企業や教育機関でコミュニケーション講師として活躍。15年間にわたって約7万人に「相手も自分も大切にするコミュニケーション」を伝えている。出生時に割りあてられた性別は男性だったが、性別適合手術を受けて戸籍を女性に変更し、現在は男性と結婚。
筑波大学や早稲田大学をはじめとする多くの大学で講師を務め、全国200校を超える中学校・高校で、生徒・教員・PTA向けの講演を行っている。NHK・Eテレの教育番組や日本テレビ系列の人生相談番組など、メディア出演も多い。