大谷翔平に国民栄誉賞を打診した日本政府の思惑

2021年11月に大谷がMLBで自身初となるMVPを受賞した3日後、日本政府は大谷に国民栄誉賞の授与を打診した。大谷は「時期尚早」と固辞したが、この国民栄誉賞とはいったい何のための賞なのか? そんな賞をもらわずともすでに国民的英雄である大谷の人気とクリーンなイメージに便乗して、国民の政治に対する不満を洗い流そうという意図があったのではないか? 大谷の先人であるイチローに至っては、過去に3度も国民栄誉賞を辞退している。かたくなに受賞を拒む人物に3度も打診するという政府の図々しさに、逆に不信感を抱かざるを得ない。

さて、かくして大谷は寿司やアニメと並ぶ日本の“主要輸出品”となったわけだが、経済が低迷して大衆文化の振興に走ったのは何も日本だけの話ではない。かつてイギリスやイタリアや韓国も、自国経済が疲弊した際に音楽や美食など自国文化の輸出に舵を切った。

イギリスは1990年代、不況を乗り越えるために当時のトニー・ブレア首相が国家ブランディング戦略「クール・ブリタニア」を推進。オアシスやレディオヘッドなどのUKロック、ポール・スミスらのUKファッション、そしてサッカー選手のデビッド・ベッカムらが世界的人気を得た。イタリアも自国経済を支えていた製造業が衰退すると、美食とエスプレッソ文化、ファッション(イタカジ)を世界に輸出した。1997年のアジア通貨危機で経済破綻した韓国はK-POPをグローバルコンテンツにするため、ハリウッドなどエンターテインメント産業の本場に人材を送り込んだ。

このように、経済や社会がダメになると文化を輸出するようになるのは世界的なセオリーだ。日本の場合はバブル崩壊後の1990年代ごろから日本食やアニメーション、そしてスポーツ選手の輸出を始めた。この30年間で日本人メジャーリーガーが激増したことも、その一環として説明できる。そうした時代の流れの中で2018年、ついに大谷がMLBの舞台に登場した。

内野 宗治

ライター