高齢化にともなって高まる認知症リスク。認知症の発症により、本人はもちろん、家族にもさまざまな問題が発生します。そのひとつが「意思能力の欠如による口座凍結」です。この問題の解決策は、基本的には「成年後見人制度」しかない一方、日本では成年後見人制度の普及が一向に進んでいないと、司法書士で『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)著者の岡信太郎氏はといいます。いったいなぜなのか、詳しくみていきましょう。
親が認知症に→口座が凍結された!“唯一の解決策”は「成年後見人制度」だが…日本で一向に普及しないワケ【司法書士が解説】
煩雑な「成年後見人制度」だが…利用している人の“動機”とは
それでも成年後見制度を利用する人がいるのは、予防のためというより、必要に駆られて急遽利用せざるを得なかったからです。そのことは最高裁判所事務総局家庭局の統計からも読み取れます。申立ての動機として最も多いのは「預貯金等の管理・解約」です。つまり、認知症を理由に金融機関の口座が凍結されるなどして行き詰まり、慌てて制度を利用しているのです。成年後見制度が認知症対策の「最後の砦」「駆け込み寺」と言われることもあるのはこのためです。
それゆえ、慌てて駆け込み寺に駆け込んでしまい、後悔する事例が後を絶ちません。
1つ目の理由としては先ほども申し上げたとおり、後見人に必ず希望通りの人が選ばれるとは限らないことです。本人とは何の縁もゆかりもない第三者の専門職が選任されることを覚悟しておく必要があります。
2つ目の理由としては、一度後見人がつくと本人が亡くなるまで利用は止められないということです。本人が生きているうちは、何らかの理由で制度の利用を中止したいと申し出ても認められないのです。
もちろん、本人の認知症の症状が改善して自立できれば後見を取り消すことは不可能ではありません。しかし、現在の医学では認知症を完全に治すのは難しいでしょう。後見の取り消しはほぼないと考えたほうが現実的かもしれません。
後見人の側も自分の意思で辞任することは基本的にできません。「正当な事由」があれば可能ですが、それが妥当かを判断するのは裁判所であり、辞任には裁判所の許可が必要です。
専門職が後見人についた場合、その人から別の人に変更することも簡単ではありません。「家族との相性が悪い」「態度が横柄」「通帳を見せてくれない」ということがあっても、後見人の変更が認められることは稀です。もちろん、横領などの不正行為があれば別です。
口座凍結の解除などの目的が達成されたからといって後見をやめることはできないことはぜひ知っておいてください。
岡 信太郎
司法書士のぞみ総合事務所
代表