高齢化にともなって高まる認知症リスク。認知症の発症により、本人はもちろん、家族にもさまざまな問題が発生します。そのひとつが「意思能力の欠如による口座凍結」です。この問題の解決策は、基本的には「成年後見人制度」しかない一方、日本では成年後見人制度の普及が一向に進んでいないと、司法書士で『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)著者の岡信太郎氏はといいます。いったいなぜなのか、詳しくみていきましょう。
親が認知症に→口座が凍結された!“唯一の解決策”は「成年後見人制度」だが…日本で一向に普及しないワケ【司法書士が解説】
「成年後見人制度」が一向に普及しないワケ
ところが、成年後見制度は介護保険制度と比べて知名度も利用率も低迷しています。認知症高齢者は増加し続けている一方なのに、です。そこにはいくつかの理由があります。
成年後見制度の普及が進まない理由の1つに、子どもをはじめとする親族自らが希望通りに後見人になれないことが挙げられます。後見人は家庭裁判所によって選ばれますが、近年、親族を選任しない傾向が強くなっているのです。今や8割以上が親族以外から選任されています。
ちなみに親族以外とは司法書士、弁護士、社会福祉士といった専門職、市区町村等が実施する養成研修を受けるなどした一般市民の方です。親族が選ばれる場合もありますが、圧倒的多数で第三者が選任されているという現状があるのです。「自分が後見人になれる」と楽観視しないほうがいいでしょう。
成年後見制度が避けられる理由は他にもあります。後見人を利用するにあたっては家庭裁判所に申立書を提出する必要があり、それはA4用紙1枚で済むような簡単なものではないからです。
申立書には、医師の診断書を添付しなければなりません。成年後見制度は本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3段階に分かれており、本人が今どの状態にあるのか、医師の判断を仰ぐ必要があるからです。
添付書類はほかにもあります。中でももっとも馴染みが薄いのが「登記されていないことの証明書」です。これは、本人が事前に後見人を選任していないことを証明する書類です。東京の法務局が発行するため、多くの人が郵送請求をすることになります。
本人の財産がわかる資料も提出しなければなりません。典型的なのは通帳や保険証券です。原本は提出できませんので、コピーを取って提出する必要があります。しかし、これで終わりではありません。そのコピーをもとに財産目録や収支予定表を作成しなければならないのです。
こうした申立書の作成に時間がかけられない場合は司法書士などの専門家に作成代行を依頼することができます。ただ、その場合に発生する費用は原則として申立てをする人の負担なのです。
こうした複雑な手続きがあることを知っていれば、親が認知症となって金融機関から後見人をつけるように言われても「そう簡単に言ってくれるな」と思ってしまうのが一般市民の実感でしょう。制度が敬遠されるのも無理はありません。