初心者におすすめの2冊

先ほど、株式投資への態度は3つに分かれると書きました。ファンダメンタルズについて1冊、効率的市場仮説について1冊それぞれ紹介します。論理的にも無理がない内容だと思うので、興味のある初学者はぜひ読まれてはいかがでしょうか。

[ファンダメンタルズ編]

『億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術』(メアリー・バフェット、デビッド・クラーク著、井手正介、中熊 靖和訳、日本経済新聞出版)

これは、私が刷り込みを受けた本です。バフェットというのは、著名な投資家のウォーレン・バフェット氏のことですね。凄腕のアメリカ人長期投資家で、およそ14兆円(2023年)もの資産を持ってるんです。この本は本人が執筆したわけではなく、バフェット氏の投資手法を解説した内容です。

その内容を端的にまとめると、

・ブランド力のある大きな会社(「消費者独占企業」と名付けられている)に投資しよう
・そういう企業が、他動的要因(自らの責によらない要因)や一時的な不具合で暴落した時にドサッと買おう
・よくわからない会社の株は買わないようにしよう
・ ROE(株主資本利益率)を重視しよう。暴落したへっぽこ企業より、ブランド力や独占力のある企業の株をそこそこの値段で買うほうがマシ!

といったことが書いてあります。

最強の企業は規制のない水道会社。水が1リットル1,000円になったとしても、飲まなければ死んでしまうので、みんなしぶしぶ買いますよね。水はブランドではありませんが、需要が大きいので、独占したらやりたい放題です。でも、それはさすがに人間としてダメでしょう……というわけで、現実には価格などの規制があります。こういった、あたかも水を独占しているようなすごいビジネス会社を探しましょう! ということです。

その他、ファンダメンタル的指標の解説や簡単な練習問題などもあり、学びになることも多いと思いますよ。ちょっと古い本なので今の時世に合わない表現もありますが、時代を超えて一気通貫する原理原則自体は色あせるものではありません。

私は基本的にはバフェット氏の教えに従って、独占力が高めの安定企業を中心に取り扱っています。国内であれば、コマツ、ビックカメラ、武田薬品工業、すかいらーくホールディングス、日本たばこ産業、吉野家ホールディングスなど。その他、米国株も同様の指針で、バークシャー・ハサウェイ、ボーイング、デルタ航空、ロイヤル・ダッチ・シェルなどを保有しており、幸いにも最近は大きな損失は出していません。

[効率的市場仮説編]

『ウォール街のランダムウォーカー』(バートン・マルキール著、井手正介訳、日本経済新聞出版)

効率的市場仮説をざっくり解説すると、テクニカル分析もファンダメンタルズもお前らにとっては意味なし

・なぜなら株価には既に全ての情報が織り込まれているからだ
・全ての情報には、現時点における未来予測や期待値も含まれている
・新たな情報が現れても、みんなが合理的に動いて瞬時に株価に反映される
・だから今日の株価の動きなんてランダムなのだ
・結論、考えるだけムダ。パッシブファンドに投資しよう

……とまあ、身も蓋もないことを主張している説です。しかし現実問題として、人類はそこまで合理的でも賢くもないので、市場が完全に効率的になっているとは言い難いんですね。だから「仮説」としているわけです。「効率的市場理論」ではないんですね。

とはいえ、高度に発展した現代の市場はおおむね効率的だとも言えなくはないので、それに基づいて地道に投資をしませんか……ということ。無理のない主張ですね。

しかし、株価に全てが織り込まれているのにどうして投資したら儲かるって言えるんだよ! という気もしてきます。そこは、「人類全体の経済成長に株全体が恩恵を受けますよ~、そしたら株のパイ全体が膨らむね。どこが大きく膨らむのかはわからないけど、全体的には膨らむ。だからパイ全体に薄く広く投資したらいいですよ」というような話。

「じゃあなんで経済成長すると言い切れるんだよ」というか「経済成長自体が織り込まれてるんじゃないのかよ」と次々に疑問がわくわけですが、これは技術革新や人口増加などによるのでしょうね。

私たち個人でも、昨日も今日も明日も似たような生活を繰り返しているように見えても、毎日何かをがんばっていれば、ほんの少しずつ改善してるじゃないですか。新たな便利技を思いついたり、何かのムダに気付いたり。企業や政府でも同じことなので、世の中は徐々によくなります。

その成長傾向を自分が取りこぼさないように、資産をその発展の動きにペッグして増やしていきましょう。そして、成長が確定するごとに株価にプラス分が織り込まれるでしょう……という、至極真っ当なお話です。そのためには広く薄く、大きめの指数などに連動するパッシブな運用を行うファンドに投資するのがよい、とされています。

ただ、私がこの本を最初に読んだときは、結構イロモノ扱いされていた記憶があります。しかし、時間が経ち徐々にこの考えに人気が出てきました。それを裏付けるように指数は順調に成長し、今や猫も杓子もオルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)やS&P500に投資する時代です。

今では主流の考え方の一つなので、この本を読むのはいいと思います。ただ、ここで注意点が。

先ほど「常に自分の手法を疑いまくってちょうどいいくらい」と書きました。

・果たして経済成長自体が、永遠に続きうるのか?
・ 市場の資金のほとんどがパッシブ運用になったら……。つまり、マネっこばかりが増えたら、アクティブによる価格形成機能が鋭敏に作用しすぎて、いつか修復不可能な大クラッシュを引き起こすのではないか?

といった杞憂やそれが実際に起こる可能性を常に忘れず、ちゃんと自分の意見をもつことが大切だと思います。

怪しげなテクニカルを信じ込んだ人たちを、効率的市場仮説を信じ切った人がバカにして笑うのは、やはり滑稽なことですよね。テクニカルが悪いというよりはむしろ、妄信してしまうその態度が問題なのです。

また、バフェットの選択術と効率的市場仮説は同時に成立しえません。語弊を恐れずに言えば、どっちかが(もしくは両方が)間違っていることとなります。だって互いの存在を否定しあっていますからね。それゆえに、偏らないように両方セットでお読みになるのがよいと思います。

本は本、理論は理論、仮説は仮説です。全てはまず疑いながら読み、自分の考えを内省し疑うこともやめず……。それでもなお残る投資哲学を身に付けていけば、それなりにまっとうな道を歩めるのではないでしょうか。

「投資の神様」と言われるバフェット氏でも、いくつも失敗はしておられます。「完璧な理論などありはしない」と肝に銘じて投資の勉強をしましょう。

まとめ

・株は「最初に何から学ぶか」が大切

・理論や手法を妄信せず、常に疑い続けること

絶対仕事辞めるマン