親が亡くなると、実家には大量の遺品がのこされます。思い出が詰まったものばかりでなかなか処分できないという人も多いですが、『親を見送る喪のしごと』の著者で作家・エッセイストの横森理香氏の実際の体験をもとに、遺品整理のポイントについてみていきましょう。
母はなんにもしなかったのに、宝石だけ持って行った…愛する親の形見、もらう?捨てる?「遺品整理」で後悔しないために【体験談】
靴やバッグは意外と使えない…場所を取るため「潔く処分」を
靴やバッグなどの革製品は、手入れが悪いと使い物にはならないことが多い。母のものもほぼ捨てることになった。靴はサイズが同じ姉が履けそうなものだけを選んで、姉のところに送った。
靴は、どんなブランドものでも新品同様でも、保存が良くても古くなると劣化する。それに比べて草履は、何十年たっても古くならず、修理すれば使えるので、サイズさえ合えばいただいておこう。
残念なことに母の草履は大きくて私には履けないが、自分の若い頃の草履を、いまだに履いている。修理できる職人さんも減っているが、修理代自体は安いもので、何万円とする草履を買うより、ずっとリーズナブルである。
靴は、いいもので保存状態が良くても、年を取ると痛くて履けなくなる。年齢的に柔らかい、痛くない靴しか履けなくなるからだ。革製品は、何年かたつと硬くなるのでなおさらだ。ここはもったいないと思わず、潔く処分したほうがいい。なんせ、靴は場所を取る。
革のバッグもまた、場所を取る。母が最後に作らせた、オストリッチ1匹分をいろいろな革製品にして水色に染めさせたものも、ケリー型は親友にあげた。こんな大きくて重いバッグ、親友しか持てないし、似合わないからだ。
ポシェットは姪に、長財布は伯母に。私は名刺入れだけもらった。その名刺入れは、いま娘が使っている。インターンが始まり、名刺をもらう機会が増えたからだ。
広い家に住んでいて、保管場所がたくさんあるような人はともかく、使わなくなったバッグも処分したほうがいい。私は気に入ったバッグをヘビロテで使って、買い替えるときに捨てている。
こういうことができる人は遺族に迷惑もかけないのだが、母のように、新しいものも買うし、古いものも捨てない場合、遺品整理が大変だ。私は、ほとんど捨ててしまった。古くなった革のバッグは黴臭かったし、私も姉も使いそうになかったからだ。
もったいない…大量の化粧品は姉と分けた
未使用ならともかく、ちょっとだけでも使ってあったら、化粧品は肉親が責任をもって使うか処分するしかない。母は化粧品も山ほど残した。
私もいけないのだが、母が余命宣告されてから、最後のコスメと思って、エスティローダーのハンドクリームなど贈ってしまっていた。
それに、母がマジックで「保湿クリーム」と書いていた。もしかしたら、顔に塗っていたのかもしれない。「あんたのくれる化粧品は、英語ばかりで何だかわからない」とよく文句を言っていたが、アラカンのいま、わかる。おしゃれな化粧品は、字が小さくて読めないのだ。
私も試供品でもらったおしゃれ化粧品は、マジックでクレンジング、アイクリームと書いてある。確認するときは老眼鏡をかけるが、顔に塗るときは眼鏡もかけられない。
化粧品は、姉が使えそうなものを母のポーチにぎゅうぎゅう詰めて、持たせた。「あんたったら、こんなものまで……」と姉は呆れたが、捨てるのももったいないし、肉親が使ってあげたほうが供養になる。
私は、母が「保湿クリーム」と書いたハンドクリームを持ち帰った。もうこの筆跡がなくなると思うと、使い切るまでは見ていたかった。
横森 理香
一般社団法人日本大人女子協会 代表
作家/エッセイスト