飲み水、食べ物、ヘルメット…災害への備えは万全にしておくべきですが、「トイレ」もまた然り。災害時、「多くの地域が断水・停電している中で、飲み水よりもトイレが困った、という声が多く、問題の深刻さがうかがえる」と、防災トイレ専門家の加藤篤氏は警告します。加藤氏による著書『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)より、災害時におけるトイレの問題を詳しく見ていきましょう。
東日本大震災で、仮設トイレが「3日以内」に避難所に行き渡った自治体は〈わずか34%〉…災害時、被災者を待ち受ける「深刻なトイレ事情」
スムーズな「排泄」を促すために“大切なこと”
排尿・排便をスムーズにするためには、水分と食事をしっかりと摂る必要があります。このとき気をつけなければならないのが、「口腔ケア」です。
水分摂取が不十分で口の中が乾燥してしまうと、ウイルスなどに感染しやすくなります。特に水が使えない災害時は、日頃当たり前のように行っている歯磨きやうがいなども、ないがしろになりがちです。食事の汚れが残った状態にしておくと、細菌が増え、虫歯や歯周病、さらには誤嚥性肺炎になる恐れもあります。誤嚥性肺炎とは、唾液や食べものが誤って気道に入ることにより引き起こされる疾患で、命を落とすことにもつながります。
水や歯ブラシが手に入らない場合、液体歯磨きで口をすすいだり、指に巻いたティッシュペーパーや専用のウェットティッシュで歯の汚れを拭き取ったりすることが効果的です。もし歯ブラシがあれば水に浸してからブラッシングし、歯ブラシの汚れをティッシュで拭き取りながら繰り返します。最後は、少量の水で2〜3回に分けて口の中をすすいでください。
口腔ケアができていなければ健康的に食べることができませんし、食べられなければ排泄も乱れます。口腔ケアと排泄ケアはつながっていることを認識しましょう。
加藤 篤
NPO法人日本トイレ研究所 代表理事