誰にとっても身近で興味がある「カネ」が題材のマンガ『闇金ウシジマくん』。作家で元外交官の佐藤優さんは「ウシジマくんは現代の日本社会が抱える問題の事例集にもなっている」と評価します。本稿では、佐藤さんの著書『天才たちのインテリジェンス』(ポプラ社)から一部抜粋して、佐藤さんと『闇金ウシジマくん』の作者・真鍋昌平さんの対談をお届けします。
佐藤「カネ、権力、暴力の3つは、それぞれ代替性がある」
佐藤優さん(以下、佐藤):真鍋さんのサングラス素敵ですね。私もほしいのがあるんですよ。俳優の白竜さんがプロデュースしたモデル、凄みがあっていいんだよね。
真鍋昌平さん(以下、真鍋):佐藤さん、すでに迫力十分じゃないですか。先程いらしたとき、どこのマフィアが来たのかと思いました(笑)。
佐藤:ふふ。2004年から連載されている『闇金ウシジマくん』も最終章に入り、いよいよ佳境ですね。初期の「フーゾクくん編」に登場した風俗嬢の杏奈が、現在の「逃亡者くん編」で再登場したときには、すごい構想力だなと感心しながら読んでいました。一読者として大変興味深く楽しんでいますが、そもそもなぜ闇金というテーマに目をつけたんですか?
真鍋:ずっと身近にある葛藤の物語を描きたいと思っていました。けれどウシジマの前に描いていた短編や雑誌連載は次々と打ち切りになってしまって。悔しくて、どうしたらアンケートで1位を獲れるか必死に考えて、誰にとっても身近で興味のあるお金を絡めた題材にしようと思ったんです。
ちょうどその頃「五菱会事件」(指定暴力団山口組系旧五菱会の元幹部らが多重債務者に直接勧誘を持ちかける闇金融システムで巨額の収益を上げ、海外でマネーロンダリング=資金洗浄したとされる事件)がメディアで騒がれ、闇金業者の情報を入手しやすくなったことが決め手になりました。もともと犯罪モノの映画も好きでしたし。
佐藤:カネ、権力、暴力の3つは、それぞれ代替性があります。暴力はカネに、そしてカネは権力になりうる構造が、ウシジマくんを読むとよくわかる。ウシジマくんは現代の日本社会が抱える問題の事例集にもなっています。
真鍋:たしかに連載開始当初の闇金業界は、やはり暴力系というか、威圧的な方が多かったですね。取材相手でも、こちらが少し距離を置いたら電話が1日に何度もかかってきたり、弔電が来たり、探偵につけられたり、生のカニが送られてきたり(笑)。
佐藤:なるほど。嫌がらせのカニであっても、腐っていなければ法に触れない。そのあたりは相手もちゃんと考えている。
真鍋:ええ。でも当時からすると闇金業界もだいぶ雰囲気が変わって、最近はカニが送られてくることもありません。当初仕切っていた人たちが別の稼ぎ口に移動したみたいですね。業界自体に金が回っていないのか、先日取材に行った沖縄なんて、スクーターで取り立てに行って、道端で受け渡しするくらいカジュアルでした。
佐藤:沖縄には昔から「模合」という相互扶助の風習があります。毎月仲間同士で寄り集まって食事をしながら一定の金額を集めて、集まった金はそのときに必要な人から順番にもらっていくという仕組み。だから貸し借りのハードルが低いのかもしれません。