赤字経営を救った「SNS投稿」

時は移り変わり、携帯電話の普及や、気軽にコーヒーが飲めるチェーン店が増えたことも影響し、王城は一時、客足が遠のき赤字経営だった時期がある。

危機感を抱いた珉碩さんは店を守るためにできることをと考えて、先代までは断っていた取材を受けたり、コロナ禍には通販という形でコーヒーチケットを販売。

さらに自ら始めた店のツイッター(現X)に、生クリーム、バニラアイス、チョコレートシロップに、みかんとさくらんぼを合わせた、昔ながらのチョコレートパフェの写真を投稿したところ、数万人のユーザーに拡散され、翌日からしばらく行列が続いたそう。

「SNSをきっかけに、それから全面禁煙にしたこともあって、最近はこれまでとは異なる若い世代のお客さまが増えました。

忘れられないのが、修学旅行で東京にやって来た高校生が、自由行動で王城に立ち寄ったとツイッターに書き込んでいたこと。あまたの名所がある中で、うちを選んでくださったことがありがたくて。

先代、先々代が積み重ねてきたことを、ぼくの代でSNSを通してアナウンスできたことで間口が広がりました。コロナ禍をきっかけに『#おひとりさま大歓迎』というハッシュタグをつけてSNSに投稿し、1人の方も複数人でも、喫茶店での時間を楽しんでいただいています」。

撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
SNSでボリュームと見た目が話題になった「チョコレートパフェ」1200円。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
SNSでボリュームと見た目が話題になった「チョコレートパフェ」1200円。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋

喫茶店経営と併せて、上野で祖父の代から3代続く漢方専門の診療所「天心堂診療所」の院長も務める珉碩さん。「なつめミルク」や「薬膳キーマカレー」など、身体に優しいメニューを取り入れながらも、変わらぬ味へのこだわりも強い。

「ある音楽に触れると、昔の記憶が蘇ることがありますよね。食べ物も同じ。店のメニューを味わったとき、懐かしい記憶を思い出してもらえるように、変わらぬ味を大切にしたい」。

私もまた王城のクリームソーダやチョコレートパフェを口にするたび、この日に珉碩さんから伺った店への深い愛情を、しみじみと思い出すのだろう。

撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋

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JR「上野駅」より徒歩約2分

住所:東京都台東区上野6-8-15

TEL:03-3832-286

営業時間:8:00~19:00(L.O.18:00)

定休日:無休

              X(Twitter):@coffeeoujyou

甲斐 みのり
文筆家