日本の喫茶店発祥地で3代続く喫茶店

■上野│珈琲「王城」

上野は明治21年に、日本初の喫茶店「可否茶館」が開業した喫茶店発祥地。年月が経つごと数は減っているものの、昭和の時代から歴史を重ねる喫茶店が今も多く営業を続けている。上野駅から徒歩約2分の「珈琲王城」もそのひとつ。

「なつめミルク」750円。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
「なつめミルク」750円。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋

3代目オーナー・玉山珉碩(たみひろ)さんによると、現在の場所で営業を始めたのが昭和50年。それ以前から祖父や父は別の場所で店を営んでいたものの正確な記録が残っていないそう。

父の他界により急遽跡を継ぐことになった珉碩さん。幼い頃から店を訪れ、胸をときめかせながらパフェやナポリタンを頰張った記憶が、頭の中で輝いているという。

自分がこの店の一番のファンという気概を持って、祖父と父が残した味や雰囲気を守っていこう。そう胸に誓って十数年、コロナ禍を乗り越えながら力を尽くしてきた。

昭和レトロな風情の看板はSNSでも人気。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
昭和レトロな風情の看板はSNSでも人気。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋

当地に店ができた昭和50年代といえば、エリザベス女王の来日で空前のヨーロッパ王室ブームが巻き起こったとき。当時創業した喫茶店に、王室や貴族、ヨーロッパの古城をモチーフにした煌びやかな店が多いのも、このような時代背景から。王城も貴族のような心持ちでゆったりコーヒーを味わってほしいという思いから始まった。

腕のいい宮大工が手がけた豪奢な折り上げ天井は開業時から変わらず。ゴブラン織りのソファは、生地を張り替えながら同じものを使い続けている。柱を飾る漆しつ喰くいの装飾も美術品のような美しさだ。

腕利きの宮大工が手がけた折り上げ天井とゴブラン織りのソファがシックな店内を彩る。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
腕利きの宮大工が手がけた折り上げ天井とゴブラン織りのソファがシックな店内を彩る。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋

国鉄(現JR)・京成・地下鉄と複数の鉄道が乗り入れ、東京の北の玄関口と呼ばれた上野駅。電車の遅延は当たり前で、携帯電話もない昔、駅周辺の喫茶店は待ち合わせ場所として重宝された。

王城のメニューは、どれもたっぷりボリュームがあるのが特徴的。それもまた、誰かを待って1~2時間過ごすのが当たり前だった時代に、あえて量を多く盛りつけ、時間をかけて味わえるようにという心遣いからだ。

「クリームソーダ」800円。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
「クリームソーダ」800円。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
オレンジ色の光が美しいシャンデリアは店のシンボル的存在。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
オレンジ色の光が美しいシャンデリアは店のシンボル的存在。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
ピンク電話は今も現役。クリームソーダは写真のメロンのほか、ブルーハワイ、ストロベリーなどもある。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
ピンク電話は今も現役。クリームソーダは写真のメロンのほか、ブルーハワイ、ストロベリーなどもある。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋