本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。2021年6月9日、中米エルサルバドルでビットコインを法定通貨とする法律が可決・成立、9月7日以降、エルサルバドルではビットコインをあらゆる支払いに使えるようになりました。しかし、法案成立から8カ月後の2022年2月9日、格付機関フィッチ・レーティングスは、エルサルバドルの格付けを投機的水準にあるB-からCCCへ引き下げることを発表しました。また、ビットコイン価格は低迷しており、エルサルバドルはビットコイン購入による含み損を抱えているとも言われています。こうした背景から、エルサルバドルによるビットコインの法定通貨化は失敗だったという論調の記事も少なくありません。しかし、ビットコインの法定通貨化は1年程度で成否を判断するようなスパンの問題とは思えないのです。エルサルバドルがビットコインを法定通貨としてから約1年3カ月が経過したいま、ビットコイン法定通貨化の意義を考え直してみようと思います。
ビットコインを法定通貨化…エルサルバドルとIMF、双方の狙いとは? (※写真はイメージです/PIXTA)

なぜビットコインを「法定通貨」に?

エルサルバドルは、ビットコインという一般的には「得体の知れないモノ」を法定通貨にするという大実験を行いましたが、これだけの大実験を行うには、国民を納得させる大義名分が必要です。

 

その第一は、海外出稼ぎエルサルバドル人の国際送金でしょう。

 

エルサルバドルは、全国民約650万人のうち、約250万人が米国等の海外で働いています。本国にいる家族への送金は、年間約59億ドル、同国のGDPの24.1%にあたる規模です。

 

しかし、エルサルバドルでは銀行口座を持つ人は人口の2~3割に過ぎず、口座を持たない多くの人は銀行以外の送金業者を使わざるを得ず、送金手数料として送金金額の10%以上も支払わなくてはならないという事情があります。

 

一方、ビットコインはスマホがあれば送金・着金が可能であり、人口の8割がスマホを持っていることからも、国内での送金・国際送金ともに、不自由なくできることになります。

 

制度変更が行われる場合、表向きの目的(大義名分)の後ろに「真の目的」が存在するケースは少なくありません。

 

 

途上国や社会主義国の富裕層、共通の「悩み」

では、ビットコインを「通貨」とすることの付随的効果、あるいは真の目的はどこにあるのでしょうか。筆者は、富裕層たちの国境を越えた財産の移動を容易にすることではないかと考えています。

 

近年社会的「格差」の存在が叫ばれている日本ですが、他国と比較するとまだその差は小さい状況です。そのため、日本人は各国の国民間における所得や資産の大きな格差に想像が及ばないようですが、例えば中国やフィリピンなどにおける国民の間の所得・資産の格差は、日本とは比較にならないほど大きいといえます。当然ですが、途上国や社会主義国にも、日本の富裕層の資産をはるかに凌ぐ資産を保有する人たちは多数存在します。

 

しかし、そんな途上国や社会主義国の富裕層にとってネックとなるのが、資産の国外持ち出しの難しさです。たとえば、日本の不動産を買いたい中国人の富裕層が、お金はうなるほどあるのに日本への送金が叶わず、決済できない…といった話です。

 

そうした悩みの根幹にあるのが「外為規制」です。途上国や社会主義国では、厳しい外為規制が敷かれて海外送金が難しく、銀行が送金させてくれないのです。

 

このように、「資産を持っていても国境を越えて移動させるのが難しい」というのが、途上国や社会主義国富裕層の悩みだったわけですが、暗号資産は、銀行やSWIFTという中央集権的なシステムを使わないため、やすやすと国境を越えることができるのです。