スポーツの社会貢献はESG投資に通じる~元プロ野球選手に聞く

今回は、オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)で活躍した元プロ野球選手・小川博文氏、幻冬舎ゴールドオンラインで『元ヘッジファンドマネジャーが明かす「投資信託」の真実』を連載するオリックス銀行・森敦仁氏のスペシャル対談です。小川氏が現役時代から今日に至るまで積極的に実践してきた社会貢献活動など、森氏が聞きました。

プロ野球界の社会貢献活動に通じるESG投資とは?

オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)で活躍した元プロ野球選手・小川博文氏

 

小川氏が現役時代から今日に至るまで積極的に実践してきた社会貢献活動と、最近さまざまな分野で注目されている「ESG(Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の頭文字を取ったもの)」の考え方には相通ずるものがある。

 

そこで、ファンドを厳選する際「ESGの観点」を重要なポイントとしているオリックス銀行株式会社役員補佐 資産運用営業部 部長 森敦仁氏と、地域密着・社会貢献という考え方のきっかけとなった阪神淡路大震災から今日までの活動について語っていただいた。

 

:3年ぶりに横浜DeNAベイスターズからオリックス・バファローズに戻られたという

ことですが、現在はコーチではなく、オリックス野球クラブ株式会社の事業本部 事業運営部 コミュニティグループでご活躍中と伺いました。

 

ユニフォームからスーツへと大胆に変身されたわけですが、いかがですか?

 

小川:そうですね。選手時代やコーチ時代とは全く勝手が違い、四苦八苦しています。


:15年間にわたる現役生活、はじめの頃はご苦労なさったことや壁にぶつかったこと

もあったのでしょうか。


小川:まず苦労したのはウェイトや食事の管理ですね。そして、何より衝撃だったのはプ

ロのレベル!

 

アマチュア時代とは打球や投球の速さが全然違うんですよ。こんな化け物みたいな人たちに囲まれて、「この先やっていけるのかな?」と不安になったことを覚えています。

プロ野球選手として使命感を感じた

:そんな中でもレギュラーの座をつかまれて、成績を残していったんですね

 

小川:はい、実際にはかなり大変でしたが…。

 

その頃のパ・リーグはメディアへの露出がセ・リーグに比べ極端に少なかったんですが、阪急ブレーブスからオリックス・ブレーブス(現オリックス・バファローズ)に変わったという経緯もあって、球団や選手を愛してくださるファンの方々が大勢球場に応援しに来てくれたんですよ。「サインしてください」と言われた時は本当に嬉しかったですね。

 

オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)で活躍した元プロ野球選手・小川博文氏
オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)で活躍した元プロ野球選手・小川博文氏

 

 

:プロ野球選手としての社会的意義や使命感も感じられたのでしょうか。


小川:もちろんです。プロに入った以上は当然だと思います。プロ野球って、世の中に対す

る発信力が強いんです。SNSなども無い時代だったので、僕らの時は特に影響力が大きかったと思います。

 

 

震災を経験して、感謝の気持ちが強く

小川:その中で、1995年の阪神淡路大震災が起きました。僕自身も身の危険を感じまし

たし、周りの環境も一変しました。震災をきっかけに、生活が狂ってしまった方もたくさんいらっしゃいましたね。


:震災が1月17日ですから、キャンプ前で自主トレされていた時期だったと思います。

「野球をやっていていいのかな」とお考えになったりしましたか?


小川:それは当然思いました。あの状況の中で、自主トレを含め野球をするということ自

体考えられなかったですね。

 

高速道路が歪んでしまったり、三宮の駅が崩れたり…

 

そういった中で、「自分は野球をしていいのか」、「何かもっとやるべきことがあるんじゃないか」ということを考えました。

 

:それは個人としても思われたし、やっぱりチームとしても…?

 

小川:もちろんそうです。

 

「震災の被害を受けたファンの方々が、球場に来ることができるのか?」

 

「野球なんかしている場合じゃないんじゃないか?」と散々悩みました。

 

ただ、そんな悩みを吹き飛ばし、再び野球に向き合わせてくれたのは他ならぬファンの方々だったんですね。オープン戦、公式戦と、ふたを開けてみるとたくさんのファンの方々が応援しに来てくださったんです。感動しましたね。

 

そして、このファンの方々のためにプロ野球選手として何ができるのかを考えました。すると、やはり「勝つ」ことしかないんですね、私たちには。

 

ヤクルトとの日本シリーズでは、3連敗と追い込まれた第4戦でホームランを打った
ヤクルトとの日本シリーズでは、3連敗と追い込まれた第4戦でホームランを打った

 

:野球を通して、神戸の皆さんに勇気や感動を与えていったんですね。


小川:いえいえ、逆に僕らが貰ったという感じでした。

 

「ファンの方々の『ありがとう』という声に支えられて僕らはプレーをしている。」

 

そんなふうに実感するようになったんです。もちろんそれまでもファンの方々への感謝の気持ちはありましたが、正直「野球さえうまくなればいいや」と思っていた部分もありました。それが震災で大きく変わっていったんですよ。日を追うごとにファンの方々、地元の方々への「感謝」の気持ちが強くなっていきましたね。

地域に密着して、より身近な存在に

:震災を経験され、ご自身の意識の中に大きな変化を感じられたんですね。

 

小川:そうですね。

 

それまでの「野球さえうまくなればいいや」という考え方から、チームが地域に寄り添い、身近な存在になるのが大切という考えに変わっていきました。「がんばろう神戸」という言葉がそれを象徴していると思います。

 

:そして95年に優勝を果たし、多くの方に元気と勇気を与えられましたね。特にヤク

ルトとの日本シリーズで、3連敗と追い込まれた第4戦、川崎憲次郎選手からホームランを…。

 

小川:ああ、9回の起死回生同点ホームランですね。覚えていてくださってありがとうご

ざいます!

 

あの時は見えない力というか、「ファンの方々の力が後押ししてくれた」という感じがありました。

 

そこからですかね、「市民球団」という意識が生まれたのは。「地域の方々と一体になっていかなきゃいけない」と考えるようになりました。

 

 

現在は地域貢献で活躍

:先ほど「チームが地域に寄り添い、身近な存在になるのが大切」というお話がありま

したが、現在は球団職員という立場でその思いを実現されているかと思います。

 

実際にどのような活動をされているのか、聞かせていただけますか?

 

小川:代表的な活動としては大阪市内の小学校訪問を行っています。体育の授業で「ティー

ボール(ホームベース上のバッティングティーに乗せたボールを打つ競技)教室」を実施し、「ルールを守ってみんなで楽しくスポーツすること」を体験してもらったり、高学年の子どもたちには「キャリア教育」も行っています。そこでは僕たちがこれまでプロスポーツ選手として培ったキャリアを生かした話をしています。それから、食育に関する話もします。

 

球団としては、「バファローズカップ」という少年少女の軟式野球大会や、現役選手を中心に施設訪問やトークショーなど、たくさんの方々と身近にふれあう機会を大切にしています。

 

:食育って気になりますね。


小川:我々の部署にトレーナーが一人いて、小学生の食に関して大切なことを教えていま

す。朝ごはんはしっかり食べなさいよ、三食しっかり食べなさいよ、食事を抜くようなダイエットはダメですよ…といったことですね。

 

食事を無駄にすることがないように『フードロス』についての考え方も教えています。

 

:なるほど。今の小学生って忙しいですから、食に関しておろそかになっている部分も

ありそうですね。

 

阪神淡路大震災を経て、チームが地域に寄り添い、身近な存在になるのが大切という考えに変わったと語る
阪神淡路大震災を経て、チームが地域に寄り添い、身近な存在になるのが大切という考えに変わったと語る

 

最近では企業も社会貢献が重要に

:私、小川さんたちが行っている社会貢献活動は、本日の対談テーマ「ESG」に通ずる

ものがあると感じているんです。特に、「S(=社会)」の部分です。最近では企業も、ESGの観点、つまり社会貢献を意識した経営を行うことが求められているんです。

 

ESG投資とは?
ESG投資とは、利益や配当、有形資産といった財務情報だけでなく非財務情報であるESGを考慮した投資方法。ESGに取り組んでいる企業は不祥事が起こりにくく、安定したビジネスの継続が期待できるため、中長期的に良好なパフォーマンスが期待できる。

 

例えば、先ほどフードロスのお話がでましたが、大手コンビニチェーンの場合、多くのフードロスを出しそれを放置していると、SNSで批判され株価が下がってしまう…なんて事態になることもあります。

 

「その企業が社会的な使命を果たしているのか」という点が、企業経営においても重要になってきているんです。

 

そこで企業がESGを意識した経営を行う際、「プロ野球界で以前から行われている社会貢献活動が何かしらのヒントになるのでは?」と思っておりまして、そういう意味で、先ほどお伺いしたお話は我々も参考にしたいと思っています。

 

小川:ありがとうございます。


:社会貢献を意識した経営を行うことが、企業価値の向上や長期的な成長に繋がるわけ

ですが、投資家の方々もESGの観点で企業の社会的価値を見いだし、投資を行うようになりつつあります。単に利益を追求して、お金を儲けて配当で還元すればいいだろうという時代ではなくなりました。 

 

例えば、利益を最優先し、安い労働力として幼い子どもたちを働かせているようでは企業として評価できないわけです。

 

投資の世界においても、企業を倫理的な側面で見極めていきましょう、という流れが強くなっているんですね。

 

小川:球団と同じように企業も、「社会的価値があるのか」という点は重要ですね。

世界で急速に拡大するESG投資

:当社では、中長期投資に適したファンドを厳選するにあたり、ESGが企業への投資プロ

セスにどう考慮されているかを重視します。一般的なファンドでは企業を評価する際に主として利益や配当といった財務指標に注目しますが、中長期投資の場合には短期的な業績動向を見るだけでは指標として十分とはいえません。

 

ESGに取り組んでいる企業は不祥事が起こりにくく、安定したビジネスの継続が期待できるため、中長期的に良好なパフォーマンスが期待できるんです。

 

同じように投資をするのであれば、しっかり社会に貢献しているファンドや企業に投資したいと考える個人投資家も増えています。

 

小川:つまり、「投資を通じた社会貢献」というわけですね。

 

:おっしゃるとおりです。今は人生100年時代と言われていますが、小川さんは投資な

どをお考えになったことはありますか?

 

小川:今日のお話を聞いて、ESG投資に興味が出てきました。投資というと「利益」最優

先で、「社会貢献」とは全く結びついていなかったので、目からウロコです。

 

ESG投資を行うことで、投資を通じて離れた場所、世界中に社会貢献ができる。自分の社会貢献の幅が広がる可能性を感じますね。

 

:ありがとうございます。

 

「野球さえ、うまくなればいいや」から地域の方々と一体となった「社会貢献活動をする市民球団」へ。

 

「利益追求だけの投資」から「社会貢献に通じるESG投資」へ。

 

野球界も投資の世界も、継続して成長、発展していくためには社会貢献をはじめとするESGの観点がますます重要になってきています。

 

プロ野球も投資の世界も、ESGの観点がますます重要になってきている
プロ野球も投資の世界も、ESGの観点がますます重要になってきている

 

 

オリックス野球クラブ株式会社 事業本部 事業運営部 コミュニティグループ 

1967年生まれ。1989年オリックス・ブレーブス(現オリックス・バファローズ)に入団。1995年、96年のリーグ連覇に大きく貢献。2004年に現役引退以降、オリックスと横浜DeNAのコーチを歴任。

著者紹介

オリックス銀行株式会社 役員補佐
資産運用営業部 部長 

<WEBサイト>

1993年 ヘッジファンド会社コモディティーズコーポレーション(USA)より、CTA/クオンツトレーディングを学ぶ。
1995年 オリックスコモディティーズ社にてCTA/マルチアセットのポートフォリオマネジメント業務を開始。
2007年 オリックスインベストメント社のチーフポートフォリオマネージャー。米国のファンドオブファンズの資金、日本の上場企業年金の資金等を運用。
2013年 投資顧問会社 Robeco(オランダ)出向 Investment Officer
2015年 よりオリックス銀行勤務

著者紹介

連載スポーツを通じた社会貢献とESG投資~元プロ野球選手・小川博文氏×オリックス銀行・森敦仁氏スペシャル対談

  • スポーツの社会貢献はESG投資に通じる~元プロ野球選手に聞く