今回は、スリランカを訪問した筆者が、現地金融機関のトップに行ったインタビューを特別企画としてお届けします。お話を伺ったお相手は、スリランカ投資庁のExecutive Directorや証券委員会のCEOを経て、現在は金融機関Sarvodaya Development Finance Ltd.のChairmanを勤めるMr.Channa de Silva(チャンナ氏)です。

2009年の内戦終結以降、急速に発展

長谷川 チャンナさん、本日はどうぞよろしく御願いします。まずは、スリランカという国について、簡単に教えてください。

 

チャンナ はい。スリランカは、人口2000万人の国で、シンハラ人が7割強、タミル人が2割弱で構成されています。7割は仏教徒で、他はヒンドゥー教徒・イスラム教徒・キリスト教徒がそれぞれ1割ほどいます。古くは、ポルトガル、オランダの植民地でしたが、1815年以降はイギリスが植民地として統治し、1948年に英連邦自治領セイロンとして独立しました。(1972年にスリランカ共和国として完全独立、1978年に国名をスリランカ民主社会主義共和国に改称)

 

 

長谷川 不幸にして、しばらくの間、内戦状態にあったようですが、現在はいかがですか?

 

チャンナ スリランカでは,1983年から2009年まで内戦がありました。少数派タミル人の反政府武装勢力である「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」が、北・東部の分離独立を目指して活動し、政府側との間で内戦を続けていました。当時は、最大都市であるコロンボ市内ですら、爆破事件が起こるなど、治安の点では不安定でした。2009年(5月)に政府軍がLTTEを制圧して内戦が終わりました。それから7年を経たところです。内戦の傷跡は既になく、成長軌道ははっきりしてきていると思います。

欧米の大手アパレルメーカーが工場を相次いで設立

長谷川 主要な産業は何ですか?

 

チャンナ スリランカは、以前はセイロンと呼ばれていました。セイロンは、イギリスの植民地で、イギリスは、プランテーション農業を経営して、紅茶やシナモン、スパイスなどの作物を栽培させました。今でも、これらの産地として、世界的にも知られており、スリランカにとっては高付加価値型の農業として経済を支えています。ただ、近年は、勤勉な女性労働力に着目した欧米大手メーカーが縫製拠点をスリランカに移転してきています。とある有名女性下着ブランドの製品は、ほとんどがスリランカで縫製されているという話もあります。そのため、輸出構成品目も急激に変化して、以前は大半を占めていた農業製品は23.6%にまでシェアを落としています。逆に、繊維・衣類製品などの工業製品は、75.9%と圧倒的なシェアを占めるに至りました。変化も早いです。

 

長谷川 今後の産業展望はどのようなものでしょう?

 

チャンナ スリランカという国は、日本ではあまり知名度はありませんが、欧米人の間では知名度が高く、人気は上昇中です。ニューヨークタイムズでも「訪れるべき国NO.1」として紹介されたほどです。今後は、豊かな自然や観光資源を活かした観光業やサービス産業が伸びると期待されています。もともとは、欧州からの旅行客が大半を占めていましたが、最近は、内戦の終結と治安の安定が寄与して、欧州以外の地域からの旅行客が大きく伸び、日本や中国・アジアからの旅行者も増えています。

 

長谷川 成長率では6パーセント成長と聞いていますが、もっと成長を続けますか?

 

チャンナ スリランカは、内戦が終わるまででも4パーセント成長していたことはあまり知られていません。確かに、現在は6パーセント水準の成長ですが、伸びしろは、まだまだあると思います。コロンボ都心では、ホテルやオフィス用の高層ビルの建設が次々と進んでいます。外国人向けのコンドミニアムも、目立って増えてきました。コロンボ都心に近い港の再建計画も動き始めました。中国・インド・シンガポールの資本を中心に、投資が入って建設ラッシュのような様相を呈してきており、今後、オフィスやホテルといった大きな建築物が次々と竣工していきます。

 

長谷川 確かに、都心に立つと、建築中のビルが、あまりにも多いのに驚きました。街には、まだ古い建物が多く、再開発という形でコロンボの街はこれから大きく変わっていくと思います。高速道路も、コロンボを縦断する形で、北から南へ随分伸びているのですね。観光業以外には、注目される産業はいかがでしょうか?

 

チャンナ スリランカは、その地理的な優位性を活かして、東西交易の中継地点としても開発が進むことが期待されています。実際に、日本の自動車メーカーの物流拠点がスリランカ南部に置かれたり、中国が港湾開発に乗り出すなど注目を集めているのです。そうした開発は、インフラ整備投資を呼び込み、高速道路建設や鉄道整備を早める圧力にもなっています。

国民の多くが日本への親近感を持っている

長谷川 コロンボに来て、驚いたことは、ひとつは建設ラッシュですが、もうひとつは、こちらの皆さんが英語をしっかり話すなど、教育がしっかりしているという印象が強いことです。このあたりはいかがでしょうか?

 

チャンナ そうですね。教育に対する国民の関心は非常に高いです。義務教育は無償で、教科書は貸与され、制服も国から支給されます。残念ながら義務教育を修了するのは80パーセントですが、成績が悪いと進級すらできないため、児童生徒の7~8割が放課後、学習塾に通っているなど、国民は教育熱心です。識字率も、92%程度あり南アジアでは、最も高いです。平均してみれば英語の能力も高いと思います。スリランカの国民一人当たりGDPは3,924米ドル(2015年)と、まだまだ大きな数字にはなっていません。しかし、今後伸びる余地は大きいと思います。

 

長谷川 街を走る車を見るとほとんどは中古車ですが、日本車が多い印象があります。中には、日本の整備や車検のステッカーがそのまま貼られているものもあり、日本から持ってこられたままと見受けられるものが走っています。日本とスリランカの関係や、国民の日本への印象で、何か特徴はありますか?

 

チャンナ スリランカと日本の間には、貿易、経済・技術協力を中心に、良好な関係が築かれています。日本の経済援助は、有償無償あわせると1兆2000億円にも及び、一例としては、スリランカの国会議事堂は、日本の援助で建設されたものです。最近は、中国の援助の伸びが著しいため、金額では、中国の援助が最大となりましたが、スリランカの人たちの日本への親近感は強いと思います。車といえば、走っている車の9割は日本車です。こういう事実を見ても、日本への親近感を持っている国民が多いと思います。

 

長谷川 隣国インドとの関係はどうでしょうか?

 

チャンナ インドは、隣国ですし、フライトの数の多さからも分かるとおり、経済的な結びつきは強いです。しかし、インドとの交易や、インド人との仕事や交渉は、骨が折れる面があるもの事実です。国の大きさの違いや過去の対立など、乗り越えないといけない課題があるもの事実ですが、両国の発展が軌道に乗り、成長という方向に向けて、協議が出来る環境にはあると思います。また、インドからの投資も着実に、拡大しています。

 

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肌で感じた勤勉かつ実直な国民性

インタビューを終えて・・・

移動に雇ったタクシーの運転手は、実兄が日本の大手電機メーカーで勤務しており、自分も日本に行く勉強をしているのだと言っていた。聞けば、「日本へ行って金を稼ぎ、その稼いだ資金を元に、スリランカに帰国して事業をしたい」という若者は多いのだという。彼は、運転中もガイド中も、非常に勤勉かつ実直であり、また街で接触する人々も温厚であり、とてもスリランカに対する印象が良くなった。

 

この国の立地は、工業化には、立地も含めて限界はあろうと思っていたが、インタビューにも触れられているように、交易やロジスティクスの拠点としての優位性はあるし、国民の勤勉性は今後の発展を助ける大きな材料となるだろう。

 

内戦の終結から約8年、まさに今立ち上がろうとしているスリランカから、目が離せないと強い印象を受けた今回の訪問だった。

 

 

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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