米ドルペッグ維持の鍵を握る、香港と米国の経済的な関係

今回は、香港ドルの米ドルペッグを維持する上でポイントとなる、米国との経済的な関係について見ていきます。※本連載では、中国経済の専門家である金森俊樹氏が、香港ドルの為替相場制度の現状と今後の方向性について解説していきます。

依然として大きい米国経済からの影響

前回から引き続いて、今回は、カレンシーボード下で米ドルにペッグすることが理論的に正当化される4つの前提条件のうち、③経済構造、景気サイクルが米国に近いこと、④経済関係の面でもっぱら米国に依存していること、の2点について検討をする。

 

5.香港経済は米中どちらにより同調・依存?
アカデミクスも含め、特に香港の返還、中国のWTO加盟などを経て、香港経済は米国よりメインランド経済の影響をより大きく受けるようになっているというのが一般的な認識である。確かに、カレンシーボードが導入された1983年頃は、香港経済は米国経済の影響を大きく受けていたが、80年代末にかけ、次第にメインランドの景気サイクルにも影響されるようになった。2000年代前半、アジア金融危機の影響を受け、米国とともに停滞基調となった後、2003年以降、米国経済が引き続き停滞する中で、香港はメインランドの高成長に支えられる形で急速な回復を示した。

 

しかしここ数年は、必ずしも明確な関係は認められない。香港金融管理局(HKMA)の推計によると、1985〜97年、香港の景気変動の57%が米国経済、14%がメインランド経済に起因、2003〜13年は米国48%、メインランド29%とされる。確かにメインランド経済の影響を受ける度合は高まっているが、なお最も同調しているのは米国経済である。

 

三者の実質成長率の推移を1980年から2015年にわたって単純に比較してみても、香港経済が米国よりメインランド経済に大きく同調するようになってきているとは断定し難く、米中双方からの影響を受けている(言い換えれば、米中経済自体が影響し合い、かなり同調している)と見るべきだろう(参考4-1)。

 

(参考4-1)

(出所)国際通貨基金(IMF)

(出所)国際通貨基金(IMF)

金融サービスにおける中国本土のシェアはわずか4%

また貿易依存度について見ると、香港の輸出に占める対米輸出シェアは、1980年代の25〜33%程度から趨勢的に低下し、近年は10%前後で推移する一方、メインランドのシェアは逆に上昇しており50%を超える(参考4-2)。しかし、香港は中継地点としての機能が大きく、メインランドから輸入され、香港を経由して、米国も含む他地域に再輸出されているもの、また香港からメインランドに輸出された後、米国を含む他の国・地域に再輸出されているものがかなりあることに注意する必要がある。同じくHKMAの推計では、こうした要因を考慮すると、2000年以降、香港の対外輸出増加に占める米国の割合は低下しているが、2012年時点でなお25%とメインランドの22%を上回る。

 

旅行サービスに限ってみると、2000〜12年、メインランドが28%から66%に上昇する一方、米国は11%から4%に低下しているが、もともと旅行サービス需要の香港経済に占めるウェイトは極めて低い。旅行を除くサービス輸出では、メインランドのシェアはなお低く、特に金融サービスに限ると、2012年、米国33%に対し、メインランドはなお4%未満に止まる(中信証券、2016年1月21日付新浪財経)。

 

(参考4-2)

(注)再輸出を含む
(出所)香港センサス統計局
(注)再輸出を含む (出所)香港センサス統計局

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) 独立取締役

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

連載人民元ペッグへの移行は時期尚早~香港ドルの米ドルペッグを再点検する

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