前回は、所有型法人の活用で得られる「うまみ」とは何か、そして「帳簿価格」を使った売却テクニックなどについて解説しました。今回は、既存物件と新築物件のそれぞれについて、法人化のメリットを得るためのポイントなどを見ていきます。

法人の活用に適した物件の条件とは?

筆者が法人化する際に目安にする物件とは、前回解説した「減価償却」がどれだけされているかがポイントです。建築してから長い年数が経過した建物であれば、減価償却され、帳簿価格が下がっていきます。

 

1億円の物件でも長い年月が経って帳簿価格が1000万円になっていれば、法人へ物件を売却する際に、法人側は、分割払いでなく一括払いも可能になるかもしれません。そうすれば、財産を効率よく親族へ分散していけます。

 

もう1つあげるとしたら、借入残高の少ない物件です。借入残高が多い場合を考えてみましょう。1億円の建築資金を銀行から借り入れて建てた物件が、数年経って帳簿価格6000万円になっていたとします。ところが、借り入れがまだ8000万円残っているというような場合、法人に6000万円で売却すると個人には2000万円の借金だけが残ってしまいます。

 

したがって、2000万円を一括で返済できない場合、基本的には法人への売却は問題を残すことになります。法人が肩代わりするために、6000万円で購入できるのに8000万円の融資をお願いするのも微妙なところです。仮に融資してくれたとしても、個人が法人に借りた2000万円に対する利息は何の経費にもできません。いずれにせよ、借入残高の少ない物件であるに越したことはありません。

新築の場合は物件の「収益性」を重視する

新築物件を建てるなら最初から法人名義にして、建築資金は法人が法人借り入れで調達することになります。

 

新築する時に考えるべきなのは、アパートやマンションなどの居住用にするか、オフィスや店舗などの事業用にするかということです。せっかく物件を新築するのですから、収益がでる方を選んでください。高い収益がでればでるほど、家族に分散できる財産が多くなっていきます。

 

選び方は、その立地によります。人通りの多い駅前のビルなら、収益が高いのは店舗用です。店舗用建物のテナント料は、借りている事業主の売上げに対して何%かの割合で契約できる場合もあるからです。人気のあるショップがテナントに入ってくれれば、それに連動して高いテナント料を得ることができます。また、ビルの1階から10階までを商業用に、11階以上をマンションにするといった併用も可能です。

 

ただし、店舗やオフィスにするには1つ気を付けなければならないことがあります。それは、1階から5階までを同じ会社にまとめて貸すようなケースです。その会社が入っているうちは安泰ですが、もし撤退してしまったら?1階から5階までがごっそり空きテナントになってしまいます。すぐに5階分を埋めるほど大きな会社が同じように借り手として見つかるかどうか・・・。運よく次の借り手が見つかったとしても、屋内の仕様を借り手に合わせて変える必要がでてきます。

 

わかりやすい失敗例としてこんな話があります。以前、大手塾の近くに受験生向けの学生寮を建てた人がいました。学生寮ですから、受験生が一時の期間勉強するためだけの最低限の設備を整えていました。部屋はとても狭く、もちろんトイレと風呂は共同です。ただ、ある日、大手塾がその地域から撤退してしまいました。

 

結果はいうまでもありません。入居者を募集しようと思っても、今どき各居室に専用の風呂もトイレもない上にそんな狭い部屋を借りる人なんてなかなかいません。また、よしんば入居者があらわれたとしても、家賃は相場よりかなり低い金額となってしまいます。当然、賃貸経営など立ち行くわけがないのです。結果的に、建て直しとなり、オーナーは相応の負担を強いられることになったのです。

 

このようなことからも、不動産賃貸業では、リスクとリターンのバランスを見極めるセンスは欠かせません。

本連載は、2011年8月29日刊行の書籍『相続財産は法人化で残しなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産は法人化で残しなさい

相続財産は法人化で残しなさい

阿藤 芳明

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の税制は、今、法人の税負担を軽くして企業の動きを高め、その代わりに個人の資産家から税収を得る方向へ動き出しつつあります。まさに資産家いじめの税制が訪れようとしているのです。 そのような中、相続財産の中でも約…

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