前回は、中国製造業の発展に不可欠とされる国営企業改革についてお伝えしました。最終回の今回は、中国の「製造業強化計画」が国内で軽視されているかのように見える現状をお伝えします。 ※本連載は2015年に中国国務院が発表した製造業の今後10年間の戦略計画「中国製造2025」に関して、その概要を紹介するとともに、計画成否の鍵を握る要因について探っていきます。

「計画」に対する報道・学術分野での注目度は低いまま

今後の中国経済における「中国製造2025」(以下、計画)の重要性は疑いないが、中国内での扱いは必ずしも高いようには見受けられない。第1に、「新常態」「供給側構造改革」といった用語はほぼ毎日、主要紙や雑誌の紙面に登場するが、計画への言及は少ない。

 

アカデミクスでも、中国を代表するシンクタンク、発展研究中心のサイトでは、「新常態」等に関する論考は多数あるが、計画関係の論考は、文書公表から2016年末までの間、中国製造2025」で検索すると2件、「中国製造」で検索しても9本ヒットするだけだ。もうひとつの有力シンクタンク、社会科学院のサイトでも、「経済学」→「応用経済学」→「工業経済学」と進んで、ようやく関連論文を若干見ることができる程度だ。

 

第2に、「新常態」や「供給側構造改革」が習近平国家主席主導で提唱されたのに対し、計画策定の経緯を見ると、2015年3月、全人代政府活動報告の中で李克強首相が言及、その後中国発展ハイレベル論壇で、やはり同首相が「国際協力の中で中国製造業の水準をさらに引き上げていく」と発言、他方、習主席が計画に明示的に言及したとはあまり伝わってこない。

 

第3に、上述した通り、実施体制は国務院の下に領導小組を設置し、副首相を組長に任命している。経済政策の意思決定で最も重要と見られている中央財経領導小組、習政権になって新設された全面深化改革領導小組が何れも党中央委の下に置かれ、習主席自ら組長に納まっているのとは対照的と言うべきだろう。

 

外交安全保障面で大国を目指す習主席は10大重点領域の航空や海洋には関心が強いかもしれないが、計画全体への関心がどの程度なのか、疑念が沸く。

「政治の季節」を目前に控えて・・・

最後に、2016年3月の全人代で採択された第13次5ヶ年計画(2016〜20年)は、10大重点領域ではなく、胡錦濤・温家宝前政権時代の2010年に指定された7大戦略新興産業をベースに、そのGDPシェアを20年までに15%にまで高める目標を設定している点も、深読みかもしれないが、やや不可思議だ。

 

15%目標は、2016年12月、国務院が発表した「“十三五”国家戦略性新興産業発展規画」でも記載されている(“十三五”は第13次5ヶ年計画の略)。なお、同規画ではこの他、IT、ハイテク製造、バイオ、環境関連、デジタルイノベーション(数字創意)5産業の生産を10兆元規模にまで成長させ、産業の新たな柱としていくこと、より幅広い領域で垣根を越えた融合を進め、それを新たな成長の原動力にしていくこと、これらを通じ、毎年、平均100万人以上の追加雇用創出を目指すことがうたわれている(2016年12月19日付新華社)。関係する計画が乱立しており、それぞれ誰が主導しているのか、計画間の相互関係、整合性が判然としない点も懸念材料だ。

 

必ずしも短期的な景気政策に直結する話でないこと、また製造業の目下の課題は生産能力過剰解消(去産能)で、こうした中長期課題の政策優先度は必ずしも高くないということもあろうが、政治要因が気になる。特に2017年は5年に一度の共産党大会が開催される年で、一連の党幹部人事が行われ、それが翌18年全人代での政府人事に繋がっていくという政治の季節を迎える。本件でも、憶測される習・李の経済政策面での軋轢があるとすれば、今後10年にわたる計画の実行にあたって大きな不透明要因となる。

 

 

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