日本企業の大多数を占めるとされるファミリービジネス。その承継段階では複雑かつ多様な問題が存在します。今回と次回の連載では、ファミリービジネス研究の角度から事業承継の問題を見ていきます。

「複雑な組織形態」が承継問題に関係

ファミリービジネスは、小規模事業を含めると日本企業の約97%以上を占めているといわれています。

 

昨今の報道では、ファミリービジネスの承継問題がよく取り上げられていますが、なぜ、ファミリービジネスでは承継問題がおこりやすいのでしょうか。原因として、ファミリービジネスの複雑な組織形態が関係していることが多いようです。

 

ファミリービジネスとは、所有と経営の一致の程度が高い企業のことです。一般企業の中でも公開企業の場合は、外部の出資者から資本調達を行い、所有と経営が分離している傾向にありますが、このファミリービジネスは、ビジネス(経営)、オーナーシップ(資産)、ファミリー(同族)という三つの構成要素からなる組織と定義されています(スリー・サークル・モデル)。

 

ファミリービジネスは、三つの構成要素が互いに有機的に絡み合いながら営まれています。そのため、一般企業と異なり様々な利害関係の調整が必要とされる複雑な組織といえるのです。例えば、経営は経済合理性に沿って進められるべきですが、他方で処遇や利益分配など同族のニーズにも対応せねばなりません。

 

【図表 スリー・サークル・モデル】

出所:Gersick et al.(1997)の図(訳書, 14頁)を引用
出所:Gersick et al.(1997)の図(訳書、14頁)を引用

「経営・資産・同族」の問題を複合的に見ていくと・・・

ファミリービジネスの承継問題について、スリー・サークル・モデルの観点から考えていくことにしましょう。

 

第一に、「経営」と「同族」にかかわる問題です。

 

具体的には、後継者の選抜と経営に関与する同族の範囲があります。一つ目の後継者の選抜では、誰を後継経営者に指名するのか、後継経営者をサポートする経営幹部に誰を起用するのかを同族間で調整しなければなりません。同族間の合意が得られていない場合、後継者は同族の協力を得ることができず、内部の感情的な対立を深刻化させ組織の疲弊に繋がってしまいます。

 

二つ目が、経営に関与する同族の範囲の問題です。経営に関与させる同族を限定しすぎると、ファミリーガバナンスが効かない可能性があります。他方、広げすぎると同族から多様な主義主張が提出され、経営の機動性を失う可能性もあります。

 

第二に、「資産」と「経営」にかかわる問題です。

 

具体的には、経営と資産の承継タイミングの問題です。これは、経営承継と同時に資産承継も行うのか、もしくは経営承継と資産承継を別々に考えていくのかという課題があります。経営承継が行われても資産承継が行われていないと、後継者の組織での影響力は限定されるかもしれません。他方、経営承継と同時に資産承継も行われると、企業の牽制者としての株主権限が行使できず後継者の経営上の暴走を抑止することが困難になる可能性があります。

 

第三に、「同族」と「資産」にかかわる問題です。

 

具体的には、次世代への承継に伴って資産を集中して移転するのか、分散して移転するのかという問題です。資産の集中移転は、兄弟姉妹が多い場合に合意が得にくい可能性があります。他方、資産の分散移転の場合、将来的の同族間における権限関係が複雑化して利害調整が困難になる可能性があります。

 

このように、ファミリービジネスの承継問題について、「経営」「資産」「同族」の別々の課題として考えることは、実はあまり意味をなしません。複雑なファミリービジネスの承継問題を理解するためには、三つの構成要素に依拠しつつ、多角的、多面的かつ多元的に考えていくことこそ重要となるのです。

 

<参考文献>

『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』(落合康裕、白桃書房、2016年)
『ファミリービジネス白書2015年度版:100年経営をめざして』(後藤俊夫・落合康裕編、同友館、2015年)

Gersick, K. E., Davis, J. A., Hampton, M. M., and Lansberg, I. S. (1997) Generaition to Generaition : Life Cycles of the Family Business, Harvard Business School Press (犬飼みずほ・岡田康司訳、『オーナー経営の存続と継承』流通科学大学出版、1999年).

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    本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

    事業承継のジレンマ

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    落合 康裕

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