今回は、義父と夫が同時に死亡してしまったため、嫁が義父の遺産を相続できなかったトラブルを見てきます。本連載は、日本公証人連合会理事・栗坂滿氏の著書、『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』(エピック)の中から一部を抜粋し、遺言、相続にまつわるトラブルとその予防・解決法を紹介します。

「亡き夫の父親の財産」を嫁が相続することはできない

≪トラブルの事案≫

花子さんは夫の太郎さんと結婚して以来、太郎さんの両親と同居してきました。太郎さんは長男できょうだいは弟と妹が1人ずつおり、2人とも既に結婚して家からは出ていっています。

 

花子さんは太郎さんの両親の世話を長年してきましたが、太郎さんのお母さんは数年前に亡くなり、現在は1人残された太郎さんのお父さんの介護を献身的に行っています。

 

花子さんらが住んでいる家は太郎さんが年老いた両親のために高齢者向けに改築したもので太郎さんの名義ですが、敷地は太郎さんのお父さん名義です。花子さんと太郎さんには子どもがいなかったため太郎さんは自分が死んだら自分名義の財産はすべて花子さんが相続できるように遺言書を書いていたのですが、先日、太郎さんがお父さんを車に乗せて運転中事故に遭い、太郎さんもお父さんも亡くなってしまいました。死亡の時期はどちらが先か不明とのことです。

 

太郎さんの財産は遺言があったおかげで花子さん1人が相続できましたが、太郎さんのお父さんは遺言書を書いていなかったのでその財産について義弟と義妹が「自分たちだけが法定相続人だ」として財産を2分の1ずつよこすように要求してきました。

 

花子さんは少なくとも亡き夫太郎さんが受けるべき相続分3分の1は自分が相続できるはずだと考えていましたが、弁護士に相談したところ、「太郎さんとお父さんは同時に死亡したとみなされ、互いに相続は起こらないので太郎さんの弟と妹らの言い分は間違っていません」と言われました。

 

花子さんは、今までどおり義弟や義妹らが相続した土地上の家に住むことができるか、今後義弟らに何を要求されるか不安で途方に暮れています。

 

「亡くなった順番」によって相続の内容は変わる

≪トラブル診断≫

花子さんと太郎さんとの間に子どもが1人でもいれば太郎さんとお父さんが同時死亡とみなされても太郎さんの子が代襲相続人として祖父の財産を一部でも相続することができますが、子どもがいない場合、妻の立場の花子さんは代襲相続人ではないので夫の父の財産を一切継ぐことはできません。

 

仮に太郎さんがお父さんより後に死亡したことがはっきりしていれば、お父さんの死亡時点で太郎さんはお父さんの相続人となり、その後太郎さんが亡くなったことでお父さんから相続で受けるべき財産についても花子さんが相続することができます。

 

反対に太郎さんがお父さんより先に亡くなったことが分かれば、同時死亡の時と同じ結論になり、代襲相続人と認められない花子さんはお父さんの財産を全く継ぐことはできません。花子さんの地位は極めて不安定となることは間違いないでしょう。

 

現在、相続法制の改正について検討されており、相続法制検討ワーキングチームでは被相続人の子の配偶者など相続人以外の者でも被相続人の療養看護等一定の貢献をした場合に遺産の分配を求めることができるような方策についても検討されているようです。しかし、紛争をより長期化、複雑化することにつながらないかなどの意見もあり、法の見直しも一筋縄にはいかないように思えます。

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    本連載は、2016年8月1日刊行の書籍『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

    トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

    栗坂 滿

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