今回は、親と同居して家業を手伝い、療養看護をした長男の「寄与分」をめぐる事例を見ていきます。 ※本連載は、日本公証人連合会理事・栗坂滿氏の著書、『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』(エピック)の中から一部を抜粋し、遺言、相続にまつわるトラブルとその予防・解決法を紹介します。

長男は40年間の「貢献」をもとに、遺産の全額承継を主張

≪トラブルの事案≫

農業を営んできた耕一さんが亡くなり、相続人は、農業の承継者である長男Aさん、長女B、二男C、二女Dの4人だけでした。耕一さんが残した財産は、土地建物を合わせて5000万円の評価でした。

 

長男Aさんは、農家の跡取りとして40年以上前からずっと家業の農業を手伝ってきて農地等の維持管理に努めてきたばかりか、先に亡くなった耕一さんの奥さんや晩年病気がちだった耕一さんの療養看護にもあたってきました。

 

そのようなことから耕一さんの遺言はないものの、長男Aさんは、きょうだいは何も文句は言わないだろうと考え、耕一さんの遺産はすべてAさんが承継する旨の遺産分割協議書を作り、長女B、二男C、二女Dたちに署名して判を突いてほしいと頼んだところ、CとDは同意したものの、意に反してBは自分の相続分を主張してきました。

 

当事者だけでの話し合いでは折り合いがつかず、家庭裁判所に調停を申立てましたが調わず、結局審判となってしまいました。

 

「共同相続人の遺留分」を考慮して決定された寄与分

≪トラブル診断≫

審判では長男Aさんの寄与分について、Aさんが農地等の維持管理に努めるとともに耕一さんの療養看護にあたってきたことから7割と判断し、残りの3割すなわち1500万円を相続人の人数4で割った375万円を相続人の具体的相続分としてその価額に見合う財産を長女Bに取得させることとしました。

 

それでもBは納得せず、抗告した結果、抗告審は、「裁判所は寄与分を定めるに当たっては他の相続人の遺留分にも考慮すべきであるとし(本件で各人の遺留分は625万円)、ただ家業である農業を続け、これらの遺産たる農地等の維持管理に努めたり、父の療養看護にあたったというだけでは長男Aの寄与分を大きく評価するのは相当でなく、さらに特別の寄与をした等特別の事情がなければならない」として原審判を取り消して差戻しました。この抗告審の考えは、東京高裁平成3年12月24日決定(判例タイムズ794・215)によるものです。

 

寄与分と遺留分の関係については、①寄与分の上限は遺留分によって画されるとする考え方と、②遺留分は寄与分の上限を画するものではないが、寄与分を定めるにつき考慮すべき事情には共同相続人の遺留分も含まれ、原則としてそれを尊重すべきで遺留分を極端に侵害するような寄与分の定め方は遺産分割審判における妥当な裁量の範囲の逸脱として違法の評価を受ける、との考え方があります。

 

上記東京高裁決定はこの②の立場を採るもので、裁判所の確立した考え方といえます。

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    本連載は、2016年8月1日刊行の書籍『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

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    栗坂 滿

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