日本のさらなる繁栄…欠かせないのが「日台産業協力」
――中国から安全なところに生産拠点を移さなければならないとなると、韓国、台湾企業は日本という選択肢ががぜん重要になってきますね。
武者氏:特に台湾企業の対日投資の大きなうねりが期待できそうである。日本貿易振興機構(JETRO)調査によると台湾の対外直接投資の大半を占めていた対中投資が激減している。他方で台湾の対日投資が急増している。
台湾の対中直接投資は23年に前年比39.8%減少し、30.4億ドル(4,560億円)だった。一方、日本の財務省によると、台湾の対日投資は2,697億円と前年比46.9%の急増となった。
台湾の中国向け投資が激減した要因は、中国経済減速に加え、米中対立が本格化し米国が着々と中国排除の外堀を埋めつつあるからである。トランプ政権による中国製品への制裁関税に始まり、ファーウェイなどに対する先端半導体輸出規制、等により台湾企業の中国大陸での事業環境は一変した。
次期大統領に最も近いとされるトランプ氏は対中輸入関税を一律に60%に引き上げると言っている。今は特定の先端品だけにとどまっている米中の通商障壁は大きく高まり、いずれ壊滅的な打撃をこうむるだろう。そうなる前に企業は行動しなければならない。
中国のハイテク製造業はアップルのスマートフォン生産を一手に引き受けてきたホンハイ等、台湾企業によって培われてきた。2010年には台湾企業による対中直接投資額はほぼ150億ドルで総投資額の83.8%を占めていた。
それが2023年には海外直接投資額が270億ドルと急増するなかで、対中投資は激減し、全体に占める比率は11.4%へと低下した。この脱中国の代替地として、日本に投資がおよんできているのである。
そのようななか、台湾企業の対日投資に地殻変動的動きがみられ始めた。
台湾積体電路製造(TSMC)は熊本第1期(1.29兆円内政府補助4,670億円)が完成し、第2期(2,08兆円、政府補助7,320億円)が決まった。創業者モーリス・張氏は2月24日の開所式で、「熊本工場が日本の半導体産業のルネサンスになる」と表明した。
かつてモーリス・張氏は米国アリゾナ工場の建設進展が不本意であることを表明し、「米国は自国での半導体生産を拡大しようとしているが、米国には製造業の人材がすでにいない。台湾製よりも50%もコストが高くもう昔のような(半導体が強い)国に戻ることは不可能だ」と述べていた(2022年4月)。この事と重ね合わせると、張氏の日本への期待の高さがうかがわれる。
そのほか、力晶半導体(PSMC)宮城県大衡村(SBIと共同で8,000億円投資)、アルチップ・テクノロジーズ(用途ごとに異なるカスタム半導体の設計会社)、グローバル・ユニチップ・コーポレーション(TSMCが約35%の株式を持つ設計会社)、イーメモリー・テクノロジー(メモリー半導体回路の設計開発を支援)などが日本進出を決定。さらに多くの台湾企業が日本での事業開始に向けて検討中だという。
アルチップは22年時点で大半の技術者を中国に置いていたが、中国国外へ移し始めており、異動先の多くが日本だという。日本政府がポスト5G、AIなどを積極的に支援しており、「新しいプロジェクトが次々と生まれ商機が広がっている」、との関係者のコメントをロイターは報じている。
台湾ハイテク人脈との連携が強まる期待がある。今最も成長力が高いのがファブレス半導体企業、エヌビディア、ブロードコム、クアルコム、メディアテックなどであるが、このファブレス企業の競争力の源泉がTSMCの優れた生産能力にある。そしてこれらのファブレス企業の大半は台湾人が経営を担っている。
TSMCを頂点とする台湾系の半導体産業ピラミッドに日本が絡んでいくことの意義は大きいと想像される。ホンハイ傘下に入ったシャープも生産拠点としての役割を強めていくだろう。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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