【回答率89.0%】街角景気は4ヵ月ぶりに悪化 1月「景気ウォッチャー調査」の中身【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2024年2月11日)

【回答率89.0%】街角景気は4ヵ月ぶりに悪化 1月「景気ウォッチャー調査」の中身【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
(※画像はイメージです/PIXTA)

内閣府が毎月実施する「景気ウォッチャー調査」。その最新版である「2024年1月分」の結果には、能登半島地震の影響が反映されています。景気ウォッチャーたちは景気動向をどう捉えているのでしょうか? 本稿にて見ていきましょう。※本記事は宅森昭吉氏(景気探検家・エコノミスト)の『note』を転載・再編集したものです。

全国の現状判断DIは50.2。前月より1.6ポイント低下

~前回調査の数字と見比べるときは「季節調整替え」の影響に注意

 

1月の『景気ウォッチャー調査』では、現状判断DI(季節調整値)は50.2と、能登半島地震の影響などで前月差1.6ポイント低下、4ヵ月ぶりの悪化になりました。但し、12ヵ月連続で景気判断の分岐点50を上回りました。

 

こう書くと、前回の調査では、最新12月の現状判断DI(季節調整値)は50.7と、前月差1.2ポイント上昇、5ヵ月ぶりに改善になり、4ヵ月ぶりに景気判断の分岐点50を上回ったので、継続性がないように思われますが、これは、年に一度、1月調査時点で、過去に遡って季節調整替えが行われるためです。

 

新型コロナウイルスの影響で経済活動の季節性が大きく乱れたこともあって、季節調整替えにより、通常時より変動がいろいろと大きくなっているようです。23年に関してみると、9月から12月まで新しい季節調整値は1ポイント前後指数が大きくなり、9月から11月の3ヵ月連続しての景気判断の分岐点の50割れもなかったことになりました。逆に、4月・5月は1.3、1.5と旧指数より、かなり小さくなりました。

 

[図表1]景気ウォッチャー調査:現状判断DI(方向性)季節調整値・新旧の差

 

新しい季節調整値の1月分をみると、家計動向関連DIは、家計動向関連DIは、飲食関連の前月差7.8ポイント低下をはじめ住宅以外の各主要項目が低下し、全体として2.1ポイント低下の49.5と、1年ぶりの50割れになりました。企業動向関連DIは前月から1.2ポイント低下の50.9になりました。製造業は前月から上昇、非製造業は前月から低下しましたが、どちらも50超になりました。雇用関連DIは前月から0.6ポイント上昇し53.3になりました。一方、1月の先行き判断DI(季節調整値)は前月差2.1ポイント上昇の52.5です。

 

内閣府は、『景気ウォッチャー調査』の現状判断を23年5月から8月までは「緩やかに回復している」としてきましたが、9月で「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」に、22年7月以来14ヵ月ぶりに下方修正しました。但し、先行きの判断は「先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」に据え置きでした。

 

1月の調査結果に示された景気ウォッチャーの見方による基調判断は、「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。また、令和6年能登半島地震の影響もみられる。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」とまとめられるとしました。

 

「また、令和6年能登半島地震の影響もみられる。」のコメントが加わったものの、9月から12月までの「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」と基本的に同じ判断になりました。

 

12月の回答者数は2,050人中1,781人で1,800人割れ、回答率は86.9%と、『景気ウォッチャー調査』としては少なめでした。通常回答率が高い北陸ですが100人中、81人にとどまりました。想像の域を出ませんが、年初になってから年末の回答を送ろうとしていた景気ウォッチャーの中で地震によって送れなかった人がいたのかもしれません。しかし、1月調査では全体の回答者数は2,050人中1,824人で1,800人を超え、回答率は89.0%まで戻ってきました。北陸の回答者も90人まで戻りました。

被災地の現状判断DI・現状水準判断DIは、3・11ほど低下せず

~景気ウォッチャー調査にみられた、東日本大震災と能登半島地震の影響の違い

 

23年は年間を通じて「地震or震災」のコメントは極めて少なく、とりわけ8月調査から直近の12月調査にかけては5回連続で現状判断・先行き判断ともゼロでした。安心していたところ、24年の元日に能登半島地震が発生してしまいました。毎月25日から月末までが調査期間なので、能登半島地震の影響は24年1月調査に、まず反映されました。

 

被災地である、北陸と甲信越(新潟県を含む)の方向性を示す現状判断DIと現状水準判断DIは、1月の前月差はいずれも1桁の低下で、東日本大震災の時の東北の30ポイント台の大幅低下ほどは悪化しませんでした。

 

[図表2]東日本大震災時と令和6年能登半島地震時との現状判断DIの比較

 

「地震or震災」関連判断DIを計算してみると、現状判断DIは全国で35.5となりました。地域ごとでみると、北陸は27.3、甲信越は30.6でした。東日本大震災の被災地・東北のDIは16.7で、自粛ムードが出ることを指摘するコメントがありました。地理的に北陸に近い近畿のDIは26.6で、この2地域が北陸を下回りました。

 

「地震or震災」について触れた景気ウォッチャーの割合は、北陸で49.8%とほぼ半数でした。一方、甲信越では、10.1%と2桁に載せましたが、新潟県の他は山梨県、長野県の2県しかないことからみて、新潟県の人で地震に関しコメントした人が多くなかったことがわかります。

 

[図表3]2024年1月調査:地域別「地震・震災」関連現状判断DI

 

一方、「地震or震災」関連・先行き判断DIは49.3と、景気判断の分岐点50近くになりました。地域別にみると、北陸は43.5、甲信越は62.5となりました。先行きでは景況感が持ち直していくことを示唆しています。

 

[図表4]2024年1月調査:地域別「地震・震災」関連先行き判断DI

「新型コロナウイルス」関連判断DIは、現状も先行きも50台

~景況感への影響力は小さい状況が継続

 

1月の『景気ウォッチャー調査』で、「新型コロナウイルス」関連判断は、現状判断で63人がコメントし、DIを作ると57.1と景気判断の分岐点50を上回る水準です。先行き判断で「新型コロナウイルス」関連のコメントは62人で、関連DIは59.7になりました。

 

[図表5]新型コロナウイルス関連判断DIの推移

 

コロナ禍が始まったばかりの2020年2月・3月には先行き判断で1,000名を超えるウォッチャーがコメントし、DIが50を大きく下回っていましたが、先行き判断のコメント数が23年10月に初めて83人と2ケタに低下し、11月で75人、12月で58人、24年1月は62人になりました。「新型コロナウイルス」は景況感に大きく影響を与える材料ではなくなっていると言えます。1月調査では「第10波」に関し先行きのコメントした人が3人いましたが、「第10波」関連先行き判断DIは50.0で悪材料とみられていません。

 

[図表6]新型コロナウイルス・先行き判断コメント数

「価格or物価」関連判断DIは、現状も先行きも50以下

~引き続き景況感の足を引っ張るも、物価の落ち着きを反映して回答数が減少

 

1月の『景気ウォッチャー調査』で、景況感の足を引き続き引っ張った悪材料として目を引くのは12月に続き「価格or物価」関連の判断です。現状判断で156人がコメントしDIを作ると43.4でした。172人がコメントし45.8だった12月から、DIは2.4ポイント低下しましたが、回答数は16人減りました。景気判断の分岐点50を下回る水準が続いていますが、物価が落ち着いてきたこともあって回答数は減少しています。

 

先行き判断で「価格or物価」関連のコメントは261人で、関連DIは47.0です。こちらは、273人で関連DIは43.4だった12月からDIは3.6ポイント上昇しましたが12人回答数が減りました。但し、景気判断の分岐点50を下回っています。総じてみると、「価格or物価」関連は影響度が徐々に小さくなりつつも、依然として景況感にマイナスの影響を与えている項目と考えられます。

 

[図表7]2023年2月~2024年1月調査:価格・物価関連コメント集計表

「外国人orインバウンド」関連DIは、現状・先行きともに50超

1月の『景気ウォッチャー調査』で、「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは54.9と、12月の63.1から低下しました。地震や航空機事故を嫌気したインバウンド需要の減少が懸念されましたが、現状判断DIは60割れにこそなったものの、22年5月から続いている景気判断の分岐点50超は維持されました。

 

一方、先行き判断で「外国人orインバウンド」関連DIは、22年4月の46.9以来18ヵ月ぶりの50割れになった10月49.9から、上昇に転じ、11月58.1、12月60.4、1月61.4と改善してきました。

 

[図表8]外国人orインバウンド関連DIの推移

 

なお、「外国人orインバウンド」関連のコメント数は、新型コロナウイルスが流行していて外国人の入国が規制されていた時期は極めて少ない状況で、外国人orインバウンド」関連の現状判断コメント数は、21年9月・10月は1人だけでした。23年6月から11月の6ヵ月は70人台・80人台の高水準でした。12月は65人と5月以来7ヵ月ぶりに60人台に低下したものの、1月は81人に戻りました。

 

[図表9]外国人orインバウンド関連・現状判断コメント数の推移

「政治」先行き関連判断DIには厳しい見方が強まる

「政治」対し、1月の先行き関連判断DIからみると、11月・12月に続いて景気ウォッチャーの厳しい見方が感じられます。

 

12月「政治」先行き関連についてコメントした景気ウォッチャーは25人で、3人だった11月から大きく増えました。1月は18人に減りましたが引き続き2桁でした。1月「政治」先行き関連判断DIは36.1になり、11月の41.7、12月の40.0を下回りました。

先行き判断DIが50超、「これから期待される項目」も

1月『景気ウォッチャー調査』は、2月14日バレンタイン・デー直前の調査です。5人がコメントした「バレンタイン」関連・現状判断DIは65.0、8人がコメントした「バレンタイン」関連・先行き判断DIは56.3になり、どちらも景気判断の分岐点50を上回りました。

 

桜の開花予想のニュースが流れる時期になったことで、お花見への期待もあるようです。1月では先行き判断で5人がコメントし、「桜」関連・先行き判断DIは65.0と50超になりました。

 

日経平均株価が、バブル以来の高値更新となる中、1月「株」関連・先行き判断DIは28人が回答し63.4で、5人が回答し45.0だった12月から大きく上昇し、50超になりました。

 

北陸応援割に対する期待もあります。1月では先行き判断で8人がコメントし、「応援割」関連・先行き判断DIは53.1と50超になりました。

 

[図表10]景気ウォッチャー調査(2024年1月)主な要因別DI

 

※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

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