「家庭の借金」と「国の借金」
優斗の楽観的な推測を、ボスはあっさり否定した。
「そんなことないで。政府が困ったら、借金返済のために、僕らは税金を取られるかもしれへん。僕らは利益も責任も共有しているからな」
じわじわと優斗は腹が立ってきた。
「どうして、僕たちが昔の借金を返さないといけないんですか」
目の前に座るボスを責めてもしょうがないが、ボスのようにソファに腰を沈めてくつろぐ老人の姿が思い浮かんだ。彼らは、後先考えずに、自分たちの生活だけを考えて借金を積み上げてきた。そして、今ごろ、ほくそ笑んでいるのだろう。借金を返さずに何とか逃げ切ったと。
「自分たちはラクをしておいて、そのツケを将来に回すなんてずるくないですか」
優斗の不満を聞きながら、ボスは「よっこらせ」と立ち上がる。冷蔵庫からペットボトルの麦茶を取り出すと、2人の前に1本ずつ置いた。ボスも同じものを飲んでいた。
「そうか、ずるいと思うんか。それはどうしてなんや?」
いつものパターンだと優斗は思った。彼が当たり前の質問をするときは、間違いなくひっかけ問題だ。だけど、素直に自分の考えを伝えるしかない。
「だって、昔の人たちは税金払わないで、借金してラクをしたわけでしょ。そのせいで、借金を返すときに、僕らがたくさん働いて稼がないといけないんですよね」
期待どおりの答えだったのか、ボスはニヤリとした。
「ほお。その話は興味深いな。昔の人たちがラクをしたせいで、未来の人たちが働かされると言うんやな。せやけど、タイムマシンは存在せえへんで」
「なんで、急にタイムマシンの話になるんですか」
「未来の人をここに連れてきて働いてもらえるなら、僕らはラクをして生活できるやろう。せやけど、そんなことは不可能や」
ボスの話もわからなくもない。アフリカ支援の堂本のオフィスでの話(善意が迷惑に…「途上国・アフリカ」に服を寄付すると「発展のさまたげ」になるワケ)を思い出した。過去の蓄積の上に僕らは生活している。逆に未来の人のおかげで生活するなんてできやしない。そうなると借金とは何だろうか。優斗は混乱してきた。
「でも、僕の兄は300万円分働いて返済しないといけないんですよ。借金をしたら後から働いて返すじゃないですか」
「家庭の借金と国の借金には大きな違いがあるんや」
もったいぶったボスの言い方にもどかしさを感じたが、いつもと変わらない様子に少し安心した。きっと検査入院の結果も問題ないだろうと優斗は思っていた。
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