(※写真はイメージです/PIXTA)

日本政府は約1,200兆円もの莫大な借金を抱えています。なぜ昔の人が作った借金を、いまを生きる私たちが背負わなければならないのでしょうか。本記事では、お金の向こう研究所の代表を務める田内学氏の著書『きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(東洋経済新報社)から一部抜粋します。国と個人の「借金」の違いについて考えてみましょう。

1人1,000万円の借金

日曜日の午後、優斗は駅前で七海と待ち合わせてから、バスで病院を訪れた。市内でいちばん大きいその総合病院には、何度かお世話になったことがある。

 

正面玄関を通り抜けて、「病棟はこっちですよ」と優斗が案内したとき、七海が急に立ち止まった。

 

「どうしたんですか」

 

優斗があわてて声をかける。

 

七海は下を向いたまま深呼吸をして、すぐに顔をあげた。

 

「ちょっと立ちくらみしただけ。もう大丈夫」

 

心配になって、さらに声をかけようとしたが、彼女がふたたび歩き出したので、優斗は黙って後ろをついていくことにした。

 

5階に上がって面会の受付をすませると、研修中のバッヂをつけた看護師が、ボスの病室の前まで案内してくれた。そのドアは、他の部屋よりも明らかに大きかった。

 

コン、コン、コンと七海がノックをする。

 

部屋の中から「どうぞ」という声が聞こえ、彼女はゆっくりとドアをスライドさせた。

 

広い室内は、ホテルの一室のようだった。ベッドはもちろん、書斎デスクや大型の壁掛けテレビ、冷蔵庫も置かれている。応接セットのソファには、パジャマ姿の男性がちょこんと座っていて、こちらを向いていた。

 

「おお、君たち。よう来てくれたな」

 

と言って、その男は右手をあげた。いつもと違うパジャマ姿のせいか、ボスが弱々しく見える。

 

「検査入院とお聞きしましたけど、お体は大丈夫なんですか?」

 

七海が心配そうな声でたずねながら、ボスと向かい合うソファに腰を下ろした。優斗もその隣に座る。

 

「ちょっと体調崩しただけやのに、念のために検査入院しろと言われてな。昨日から来ているんや」

 

彼の話では、前回1月に会って以来、仕事が急に忙しくなって、2人と会う時間も、病院で検査する時間もとれなかったらしい。その説明はもっともらしく聞こえた。

 

時間を惜しむように、ボスは早々に本題に入った。

 

「とにかく、学ぶのを止めたらあかん。この前の続きの話をしよか。七海さんはたしか、日本の抱える借金にわだかまりがあったんやな」

 

「そうです。借金の話でした。日本政府は1,200兆円の借金を抱えていますから、1人当たり1,000万円を負担することになります」

 

巨額の借金があることは知っていたが、1人当たりの金額を聞いて、優斗にも実感が湧いてきた。

 

「1人1,000万円もあるの!? それ、うちの兄ちゃんの借金どころじゃないじゃん」

 

七海が不思議そうな顔を優斗に向ける。

 

「お兄さん、借金してるの? まだ、学生よね」

 

「大学行くのに奨学金で300万円借りるって言ってました。それでも相当悩んでいるのに、そんなに借金があるんですね。でも、僕らが返すわけじゃないんでしょ」

 

注目のセミナー情報

【国内不動産】5月16日(木)開催
東京23区×新築×RC造のデザイナーズマンションで
〈5.5%超の利回り・1億円超の売却益〉を実現
物件開発のプロが伝授する「土地選び」の極意

 

【事業投資】5月25日(土)開催
驚異の「年利50% !?」“希少価値”と“円安”も追い風に…
勝てるBar投資「お酒の美術館」とは

次ページ「家庭の借金」と「国の借金」
きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」

きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」

田内 学

東洋経済新報社

話題沸騰!Amazonベストセラー総合1位!! 大人も子どもも知っておきたい、経済教養小説! 絶賛の声、続々! 灘中学校・灘高等学校前校長 和田孫博 「本当に素晴らしい本。多くの若者に読んでほしい」 「本が苦手な…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧